毒にも薬にもなるミクログリアの作用
Nature Neuroscience
2010年3月22日
The helping and hurting hands of microglia
脳の免疫細胞であるミクログリアの運動をアルツハイマー病(AD)モデルマウスで観察したところ、ミクログリアが神経細胞を識別し近づいていく能力が混乱すると、疾患モデルマウスの神経細胞の減少が緩和されることが報告されている。Nature Neuroscience(電子版)に発表されるこの結果は、ADの神経細胞減少に立ち向かう治療戦略の開発にあたり、新たな標的探索に重要になるかもしれない。
進行性の神経細胞減少はADの特徴である。病気の進行における免疫応答の正確な役割は明らかでないものの、例えばミクログリアはAD脳で生産されるタンパク質アミロイドβの凝集を除去できる。しかしミクログリアはパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)のげっ歯類モデルでは神経毒性をもつことも知られている。ADにおけるミクログリアの神経毒性機能はほとんど知られていない。
ミクログリアがAD関連神経細胞死にかかわりがあるのかどうかもっとよく知るため、J Hermsらはアルツハイマー病の齧歯類モデルであるマウスの脳の神経細胞とミクログリアを、生体画像処理技術で同時に可視化した。同一個体で生きたまま最大4週間にわたってこれら細胞を撮影し、ミクログリアは神経細胞が死んで除去される前に(後でなく)周囲に集まることがわかった。しかし神経細胞-ミクログリア間の情報伝達に重大なミクログリア受容体の遺伝子Cx3cr1を欠失したマウスで同じ生体画像処理を行ったところ、ADマウスでの神経減少が食い止められた。これらの発見はミクログリアが神経細胞の死に対し、神経変性の型に状況依存して有益にも有害にもなりうることを示唆する。
doi: 10.1038/nn.2511
注目の論文
-
5月9日
生物学:人為起源の地球規模の変化が感染症伝播リスクに影響を及ぼしているNature
-
5月8日
生態学:マッコウクジラの複雑な鳴音を調べるNature Communications
-
5月7日
遺伝学:APOE4遺伝子バリアントはアルツハイマー病の他とは異なる遺伝的タイプである可能性があるNature Medicine
-
5月3日
動物学:薬用植物を使って創傷治療を行う野生動物が初めて報告されるScientific Reports
-
5月3日
進化学:地球の磁場が弱くなっていたために地球上の生物の多様化が進んだのもしれないCommunications Earth & Environment
-
5月2日
人類学:長期的レジリエンスは苦難によって構築されるNature