Research Highlights

腫瘍を破壊する制御ウイルス

Nature Reviews Cancer

2002年6月1日

アデノウイルスの細胞溶解活性を利用して腫瘍を破壊しようという試みは、これまで に何回もなされてきた。この試みの難しい部分は、アデノウイルスが正常細胞を傷つ けずに癌細胞を殺すようにしむけることだ。ところが最近、アデノウイルスの改変処 理により、網膜芽細胞腫(RB)という癌抑制遺伝子の機能型をもたない細胞だけを溶 解するONYX-411というウイルスが作出された。このウイルスは、安全性が高く、効果 的な腫瘍溶解性を示す。

瘍溶解性アデノウイルスは、1996年に初めて報告され、大きな興奮を引き起こし た。p53が不活性化されている細胞を優先的に殺すことが示された最初の腫瘍溶解性 ウイルス、ONYX-015は、マウスの腫瘍増殖を減少させた。そして現在、頭部および頸 部癌の治療の臨床試験が行われている。ONYX-015の欠点の1つは、静脈注射をすると 毒性を示すことがわかったため、患者の腫瘍に直接注入しなければならないことだ。 そのため、治療に使えるのは、ウイルスを注入できる大きな腫瘍をもつ患者に限られ る。

eisa Johnsonらは、腫瘍溶解性ウイルスの概念を進歩させ、体系的に適用できるウ イルスをつくった。ONYX-411という新ウイルスは、RB経路が欠損している細胞の中だ けで増殖するように改変処理を受けている。RB経路の欠損は、ほぼすべての癌細胞に 見られる。では、ONYX-411はどのようにして働くのか。Johnsonらは、ウイルス増殖 に必要なアデノウイルスE1AおよびE4遺伝子を、ヒト細胞由来のE2F1プ ロモーターの制御下に置いた。E2F1プロモーターはE2Fによって活性化される。 また、RB活性がないために高濃度のE2Fを含有する癌細胞では、E2F1プロモータ ーの活性が選択的に高い。ONYX-411のE1A遺伝子は、RBとの相互作用を妨げる点 変異ももつが、それでもS期への進入の媒介はできる。したがって、この変異型 E1Aは、正常細胞ではRB活性を破壊することができない。そして、このウイルスは機 能性RBをもたない細胞の中だけで複製する。

ohnsonらはONYX-411の性質を調べ、ONYX-411が試験管内で多種多様な癌細胞を殺す が、正常細胞を殺さないことを見いだした。ところで、ONYX-411の静脈注射は安全な のか。マウスで詳細に調べると、ONYX-411は、比較したほかのどのアデノウイルスベ クター(ONYX-015を含む)よりも全身毒性が低いことがわかった。しかし一番重要な ことは、ヒト子宮頸癌異種移植片をもつマウスにONYX-411を静脈注射すると生存期間 が伸び、60〜70%のマウスが治癒して正常組織には損傷が見られなかったことだ。

NYX-411の全身毒性を弱める機構は明確には理解されていないが、ウイルスが確実に RB欠損細胞内だけで複製するようにしている複数の機構がかかわっているようだ。し たがって、ONYX-411は全身適用療法が必要な転移性の腫瘍その他の癌の治療に有効か もしれない。

doi:10.1038/nrc834

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