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地震学、再建への道 - 海底観察を強化

原文:Nature 473, 146–148 (号)|doi:10.1038/473146a|Rebuilding seismology: Enhance ocean-floor observation

八木勇治(やぎ ゆうじ)
筑波大学

東日本大震災から約3か月半。5人の日本人地震学者が、今回の地震と津波から得た教訓について考察する。

太平洋プレートが日本列島の下に沈み込むプロセスは、なめらかに起こるわけではない。沈み込む海洋プレートの一部の場所では、その上にある大陸プレートに固着してすべりが止まっている。こうした箇所ではひずみが蓄積し、やがてひずみは大きなプレート間地震によって解放されて、再びプレートがすべり始める。3月に東北地方で発生した地震は、巨大な「すべり欠損」を解放した。この「すべり欠損」については、1996年に東京大学の池田安隆(いけだ やすたか)が地殻変形の地質学的速度と測地学的速度の矛盾から予想しており1、少なくとも2004年2には、もしかすると2000年という早い時期3に、GPS観測網により明らかになっていた。

プレートどうしが固着している領域(アスペリティー)の分布は、通常、地震イベントのデータの分析から推測される。この「固有地震モデル」に基づいて、地震調査研究推進本部をはじめとする政府関係機関は、将来、地震が発生しそうな地域を予測している。日本の地震学者の大半は、アスペリティー以外の領域では非地震性のすべりによってひずみが解放されるため、長い間地震が発生しないと考えてきた。しかしながら今回の地震で、この仮定を再検討する必要が出てきた。

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巨大地震の発生は、アスペリティーがあると思われる複数の場所でひずみが同時に解放されたことだけが原因ではない。これまで、地殻の変形やGPS観測から示唆されるひずみの蓄積は、データの分解能が低いため、政府の震災評価では適切に検討されてこなかった。これを考慮しない場合、推定される「すべり欠損」の合計は小さくなる。多くの地震学者が、東北地方で巨大地震が発生する危険性を認識できなかったのは、そのためだ。

ただし、巨大地震のサイクルは長く、地震発生の時空間パターンに関する正確な情報を得ることは不可能である。そのため、近年の地震活動のデータだけで、将来、巨大地震が発生する確率を見積もることはできない。巨大地震は、沈み込み帯で非常に長い年月をかけて進行する変形プロセスを反映した、例外的な事象なのだ。したがって、巨大地震の発生を総合的に理解するためには、地殻の変形に関する測地学的、地質学的、地形学的情報も考慮しなければならない。

一般に、長期的な地震活動を予知するためには、観測されたデータから弾性的および非弾性的なひずみに関する情報を取り出す方法の開発が必要である。取り急ぎすべきことは、海底の観察を強化して、プレート境界に沿った「すべり欠損」の分布を高い分解能で見積もれるようにすることであろう。

(翻訳:三枝小夜子)

本記事は、Nature ダイジェスト 7月号に掲載されています。

参考文献

  1. Nishimura, T. Spatiotemporal Change of Interplate Coupling in Northeastern Japan Inferred from GPS Data (日本語). PhD thesis, Tohoku Univ. (2000); available at http://go.nature.com/7ikqir
  2. Nishimura, T. et al. Geophys. J. Int. 157, 901–916 (2004) | Article
  3. Ikeda, Y. Active Fault Res. 15, 93–99 (1996).
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