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構造生物学:反復性脳損傷で見られるタウ繊維中に含まれる補因子らしきもの

Nature 568, 7752

慢性外傷性脳症(CTE)は、頭部に繰り返し受けた打撃が原因となって生じる神経変性疾患である。行動、情緒、思考における問題などの症状は、傷害を受けてから長い期間を経た後に現れることが多く、症状は時間とともに悪化し、認知症に至ることもある。CTEは、ボクシングやアメリカンフットボールとの関連がよく知られているが、他のコンタクトスポーツの元選手や元軍人、身体的虐待を受けた人でも見られる。CTEの疾患修飾療法はまだない。アルツハイマー病と同じく、CTEの特徴は脳細胞内の大量の過剰リン酸化タウタンパク質の存在である。S Scheresたちは今回、CTE患者の脳から得たタウ繊維のクライオ(極低温)電子顕微鏡構造を明らかにし、アルツハイマー病患者の脳で見られるタウ繊維と比較している。CTEのタウ繊維は、全体的な形態が明らかに異なっている。アルツハイマー病とCTEのタウ繊維には、同じ6つのアイソフォームが含まれており、生化学的には極めてよく似ているように見えるので、この結果はいっそう注目に値する。さらに予想外だったのは、CTEのタウ繊維にはアルツハイマー病患者の脳のタウ繊維には存在しない疎水性のキャビティが含まれていたことである。このキャビティは別の物質を取り囲んでおり、こうした補因子の取り込みがタウの凝集やCTEの発症に役割を担う可能性が考えられる。今回示された構造は、集合したタウの異なる配座異性体の伝播が、多様な神経変性疾患の基盤となっているという考え方のさらなる裏付けとなる。

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