構造生物学:慢性外傷性脳症で見られるタウ繊維の新規折りたたみ構造は疎水性分子を取り囲んでいる
Nature 568, 7752 doi: 10.1038/s41586-019-1026-5
慢性外傷性脳症(CTE)は、繰り返し受けた頭部への衝撃や、爆風への曝露と関連する神経変性タウオパチーである。CTEは当初、引退したボクサーでの拳闘酔態症候群やパンチドランカーとして報告され、その後、他のコンタクトスポーツの元選手や、元軍人、身体的虐待を受けた人でも見つかった。現在、疾患修飾療法は存在せず、診断には剖検を必要とする。CTEは、過剰リン酸化タウタンパク質がニューロン、アストロサイト、血管周囲を覆う細胞突起内に多量に存在することが特徴である。これと、皮質の第II層と第III層でのタウ封入体の蓄積によって、CTEはアルツハイマー病や他のタウオパチーと区別される。しかし、CTEにおけるタウ繊維の形態や、脳の外傷がタウ繊維の形成を誘導する機構については分かっていない。今回我々は、3人のCTE患者の脳から得たタウ繊維の構造をクライオ(極低温)電子顕微鏡を用いて最高2.3 Åの分解能で決定した。繊維構造はこれら3症例では同じだったが、アルツハイマー病やピック病、またin vitroで形成された繊維構造とは異なることが明らかになった。アルツハイマー病の場合と同じく、CTEでもタウの6つの脳内アイソフォーム全てが集合して繊維が形成され、3リピートタウのK274–R379残基と、4リピートタウのS305–R379残基が、2つの同一なC字型プロトフィラメントからなる秩序立った構造のコアを形成している。一方、βヘリックス領域のコンホメーションは異なっていて、疎水性のキャビティを形成しており、これはアルツハイマー病患者の脳のタウ繊維には見られない。このキャビティは、タウに結合していない別の物質を囲い込んでおり、このような補因子の取り込みが、CTEでのタウ凝集に役割を持つ可能性が考えられる。さらにCTEのタウ繊維では、プロトフィラメントの境界面がアルツハイマー病のものとは異なっている。今回の構造は、CTEに対する一元化された神経病理学的基準を示すものであり、集合したタウの異なる配座異性体の形成と伝播が、異なる神経変性疾患の基盤となっているという仮説を裏付けている。

