気候変動生態学:グレートバリアリーフにおけるサンゴの大規模白化事象後の生態系の再構築
Nature 560, 7716
地球温暖化によってサンゴの大規模白化事象の頻度および規模が増大しており、これに伴って多様なサンゴ礁生態系が大きく変化しつつある。局地的な影響が関連地域全域へと拡大する仕組みは、サンゴ死滅率の不均一性、サンゴ礁に生息する生物種個体群への極端な海水温の代謝的影響、そしてタクソン間の相互作用など、数多くの要因に依存する。今回我々は、2016年の大規模白化事象の前後のデータを用い、グレートバリアリーフおよび珊瑚海西部を緯度的に網羅する186地点で、サンゴ、藻類、魚類および移動性無脊椎動物の生態学的変化を評価した。白化事象の1年後、極端な海水温を経験した調査対象のサンゴ礁では、サンゴ被度に最大51%の減少が認められたが、サンゴ死滅率の地域的パターンは不均一であった。被害が最も深刻なサンゴ礁では、サンゴ食魚類の一貫した減少が明らかだったが、サンゴ礁魚類および無脊椎動物の他の短期的な応答で原因がサンゴ被度の変化に直接関連付けられるものはほとんどなかった。しかし、地域全体に見られた顕著な生態学的変化は、大半がサンゴの消失とは無関係に起きており、むしろ海水温と直接的に関連しているようだった。群集全体で栄養構造の再構築が起きていることは明白で、魚類や無脊椎動物、およびそれらの機能群の多様性において、それまで存在した強い緯度勾配が弱まっていた。特に、サンゴ礁表面の藻類をそぎ取って食べる魚類は白化後の回復に重要と考えられているが、こうした魚類は北部のサンゴ礁で減少しているのに対し、別の植食性魚類は南部のサンゴ礁で増加していた。2016年の白化事象の影響の全貌は、死んだサンゴが今後の10年で崩壊するまで明らかにはならない可能性がある。とはいえ、我々の短期的な観察結果からは、回復の過程、そして最終的な影響の規模が、群集内の機能的変化によって影響を受けており、これは局地的なサンゴ礁関連動物相の温度に依存することが示唆された。こうした変化は地理的に異なると考えられ、多くの魚類および無脊椎動物がそれぞれの温度的分布限界付近に存在する場所では、特に深刻である可能性がある。
2018年8月2日号の Nature ハイライト
微生物群集:永久凍土由来の微生物ゲノムの復元
医学研究:白血病細胞による神経の移動経路の乗っ取り
音響学:反射を伴わない負の屈折
有機化学:脂肪族C–H結合の官能基化
炭素循環:土壌炭素の大気への放出量が1990年以降増大している
気候変動生態学:サンゴの白化事象の群集規模の帰結
代謝学:コハク酸は褐色脂肪組織に入り、代謝疾患で熱産生を高める
自己免疫:自己免疫におけるインスリンペプチドの働き
分子生物学:細胞のDNA修復における二本鎖切断の削り込み
構造生物学:PTCH1の構造