超小型電子デバイスを注射針で脳に注入する
Nature Nanotechnology
2015年6月9日
直径0.1 mmの細い注射針を通して、人工の空洞構造体や生体組織に注入できる柔軟な電子デバイスについての報告が、今週のオンライン版に掲載される。この電子デバイスは、メッシュ状の構造をしており、注入後1時間足らずで広がってほぼもとの形状に戻る。今回、このデバイスを用いて、生きたマウスの脳の活動が観察された。
伸縮自在の柔軟な電子デバイスを使えば、生体組織などの3D構造の特性を連続的に観察したり操作したりが可能になる。これまでの研究によって、こうした電子デバイスを外科手術で埋め込むことができるようになった。しかし、それらを制御して特定部位に送達したり、非侵襲的に埋め込んだりすることは不可能であった。
今回、Charles LieberとYing Fangたちは、人工の空洞構造体や生体組織の特定部位に注射器で注入できるメッシュ形状の電子デバイスを設計した。著者たちは、「丸めた」状態の電子デバイスを注入すると、広がってもとの形状の約80%まで戻ることを示した。このとき、デバイスの機能の低下はほとんど見られなかった。また、電子デバイスを生きたマウスの2箇所の脳領域に注入したところ、5週間にわたり免疫応答を起こさず、正常ニューロンとネットワークを形成することを見いだした。マウスの海馬に注入すると脳活動を観察でき、周囲の脳組織へのダメージは限定的であることも明らかにした。
Dae-Hyeong KimとYoungsik Leeは、関連のNews & Viewsの記事で、「今回の注入可能な電子デバイスを別の機能性ユニットやワイヤレス部品と一体化すれば、埋め込み可能な生体電子デバイスや連続バイオモニタリングの革新につながる有望な手段が得られるだろう」と述べている。
doi:10.1038/nnano.2015.115
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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