がん:膵臓がんまたは大腸がんの患者において有望な効果を示すワクチン
Nature Medicine
2025年8月12日
第1相臨床試験の結果から、膵臓がんまたは大腸がんの患者の一部において、がん免疫療法の一種が長期無再発生存期間の延長に有効であることを報告する論文が、Nature Medicine にオープンアクセスで掲載される。著者らは、このペプチド含有ワクチン「ELI-002 2P」が、個人に合わせた調整を必要とせず、大量生産され市販可能な製品であるため、膵臓がんおよび大腸がん患者の生存期間を延長する可能性があると指摘している。
膵臓がんおよび大腸がんの再発率は、手術や化学療法後も高いことが知られており、特に体内にがん細胞の微量が残存する場合にその傾向が顕著である。がんワクチンは、免疫細胞の一種であるT細胞(T:Thymus;胸腺)を刺激し、がん細胞を特異的に認識して破壊するように設計されており、患者の個々の腫瘍タンパク質に合わせて個人化することが可能である。膵臓がんおよび大腸がんは、その成長に重要な役割を果たすKRAS遺伝子(Kirsten Rat Sarcoma viral oncogene homolog)に突然変異を頻繁に持ち、そのため、がんワクチンを含む免疫療法の理想的な標的となっている。変異型KRASタンパク質は阻害剤やT細胞療法で標的とできるが、既製ワクチンベースの治療アプローチは持続的で保護的な免疫応答の確立につながる可能性がある。しかし、従来のワクチンは最適化されておらず、免疫応答の発達中心であるリンパ節への投与に成功していない。
Zev Wainbergら(カリフォルニア大学ロサンゼルス校〔米国〕)は、標準治療を終えた後も血中にがんの残存徴候が見られる25人の患者(膵臓がん20人、大腸がん5人)を対象とした第1相臨床試験を実施した。患者は、変異型KRASペプチドをリンパ節に標的化し、免疫系が変異型KRASがん細胞を認識・攻撃するのを助けるワクチンELI-002 2Pの免疫療法を受けた。平均約20ヶ月の追跡調査の結果、参加者の68%が変異型KRAS腫瘍タンパク質に特異的な強いT細胞応答が認められた。さらに、T細胞応答が最も強い患者は、反応が弱い患者に比べて生存期間が長く、無再発期間も長くなった。
膵臓がん患者でワクチンを接種した群では、接種後平均全体生存期間はほぼ29ヶ月、無再発生存期間は15ヶ月を超え、従来の対照データを上回った。研究者らはまた、患者の一部において、ワクチンELI-002 2Pが免疫系に標的とした変異型KRASタンパク質だけでなく、各患者の腫瘍に特有でワクチンに含まれていない他の変異型KRASタンパク質を認識させるのを助けることを発見した。これは、ELI-002 2Pが患者固有の腫瘍抗原に対するT細胞応答を誘導する早期の兆候を示している。
Wainbergらは、ELI-002 2Pが免疫細胞を訓練し、膵臓がんおよび大腸がんをより効果的に認識して攻撃するのを助ける可能性を指摘している。著者らは、このワクチンが現在、第2相ランダム化試験でさらに試験中であることを付記している。
- Brief Communication
- Open access
- Published: 11 August 2025
Wainberg, Z.A., Weekes, C.D., Furqan, M. et al. Lymph node-targeted, mKRAS-specific amphiphile vaccine in pancreatic and colorectal cancer: phase 1 AMPLIFY-201 trial final results. Nat Med (2025). https://doi.org/10.1038/s41591-025-03876-4
doi:10.1038/s41591-025-03876-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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