考古学:スペインの洞窟で新石器時代の人肉食の証拠が発見される
Scientific Reports
2025年8月8日
約5,600年前の人間の遺骨の集合体が、古代スペインにおける人肉食(cannibalism)のさらなる証拠を提供する可能性を報告する論文が、オープンアクセスジャーナルScientific Reports に掲載される。この研究では、アタプエルカ山脈(Sierra de Atapuerca)のエル・ミラドール洞窟(El Mirador cave)で発見された推定11人の遺骨を分析した結果、数十の骨に火葬の痕跡、人間の歯の痕、または解体の痕跡が確認され、死後処理を受けた可能性が示された。
イベリア半島(Iberian Peninsula)には、集団埋葬や死後の遺体の再分配を含む多様な埋葬慣習の記録が残っている。半島での人肉食の事例は100万年前まで遡る記録があるが、当時の文化慣習の曖昧さや埋葬条件の不確実性から、人体処理の直接的な証拠は稀で解釈が困難である。
Palmira Saladié、Francesc Marginedas、Antonio Rodríguez-Hidalgoら(カタルーニャ人類古生態・社会進化研究所(IPHES)〔スペイン〕)は、エル・ミラドール洞窟の2つの異なる地域から発掘された、死後改変の痕跡を示す650点の個人遺骨断片を分析した。これらの遺骨は、5,709年から5,573年前のもので、子供、青少年、および成人が含まれていると推定され、同位体分析から地元住民のものと推定されている。
著者らは、サンプル中の239の遺骨に加工の痕跡を発見した。これらの遺骨は、より最近の集団埋葬の遺物と混ざり合った状態で発見された。222の遺骨には火葬に伴う色変化が認められ、そのうち69の骨には死後に行われた可能性のある解体痕が確認された。さらに、132の人骨には切り裂き、削り取り、切り刻みなどの切痕が認められ、これらは皮剥ぎや肉除去と関連している可能性がある。著者らは、一部の遺骨に人間の歯跡の可能性を示す痕跡があるとも指摘している。
確認された外傷は、いずれも死前に発生したものとは考えられない。著者らは、加工のパターンは、紛争中に受けた傷や戦利品としての身体部位の切断よりも、解体作業によるものとの一致が最も高いと述べている。著者らは、これらの発見は、新石器時代のコミュニティーに特徴的な、より深い社会的緊張と紛争の動態を示す、単一の紛争関連の人肉食事件を反映している可能性があると指摘している。
- Article
- Open access
- Published: 07 August 2025
Saladié, P., Marginedas, F., Morales, J.I. et al. Evidence of neolithic cannibalism among farming communities at El Mirador cave, Sierra de Atapuerca, Spain. Sci Rep 15, 26648 (2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-10266-w
doi:10.1038/s41598-025-10266-w
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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