ジャガイモ疫病菌に対する新たな防衛戦線
Nature Plants
2015年3月31日
ジャガイモ疫病菌Phytophthora infestansは、1840年代のアイルランドに飢饉を引き起こしたことで有名であり、現在もなお大きな脅威であるが、この菌に対する抵抗性遺伝子が今週のオンライン版で発表される。この遺伝子は、栽培されているジャガイモに近縁の南米の野生種から分離された。
Vivianne Vleeshouwersたちは、疫病菌のエリシチン(重要な生物学的機能を有する保存されたタンパク質であり、疫病菌が進化して抵抗性をかいくぐる可能性は低くなると考えられる)に応答する遺伝子を求めて、ナス属植物の野生種(ジャガイモを含む)の生殖質を探索した。10年にわたる研究の末、研究チームはそうしたエリシチン応答遺伝子の1つ、ELRを発見した。これは、南米の植物Solanum microdontumの受容体様タンパク質をコードしている。植物はこのような細胞表面受容体を多数備え、それが免疫防御の第一線を構成してレーダーアンテナ群のように働いている。その1つ1つは、侵入する病原体が有する各種の保存された特徴に合わせて作られている。
研究チームは、ELRとエリシチンが同時に存在すると感染部位の周囲で細胞が死滅することを発見した。これは、植物の強力な防御機構となって病原体の広がりを制止する。栽培されているジャガイモ系統にELR遺伝子を導入すると、複数系統の疫病菌に対するジャガイモの抵抗性が強化されたことから、ジャガイモ品種に幅広い永続的な抵抗性を与えて食糧安全保障を強化し、殺菌剤の使用量を減少させるための新たな方策が導かれた。
doi:10.1038/nplants.2015.34
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