【神経科学】幼若期のストレスが子孫を利する可能性
Nature Communications
2014年11月19日
ストレスの多い条件下で飼育された雄のマウスの子孫は、目標指向行動がすぐれており、その原因がエピジェネティックな変化であるという報告が、今週掲載される。この研究結果で、幼若期に有害事象を経験することの適応上の利点が明確になった。
これまでに行われた数多くの動物研究では、幼若期に受けたストレス(例えば、母親からの分離や床敷を減らすこと)が、行動に負の影響を及ぼす場合のあることが明らかになっている。例えば、ストレス応答の異常、行動的絶望の増加、成体期の認知障害が起こっている。その一方で、幼若期のストレスが、成体期に優位性をもたらすという利点を有する場合のあることも明らかになった。ただし、こうした有益な作用が、子孫にも受け継がれるのかどうかは分かっていない。
今回、Isabelle Mansuyたちは、マウスの実験で、母親からの分離や母体へのストレスを突然引き起こし、それを反復させて、どのような影響が生じるかを調べた。具体的には、雄の仔マウスを母親から引き離し、それと同時に母親に拘束ストレスを加えた。そして、ストレスを受けた親による子育てによって、雄の仔マウスを成長させた。こうして成長した雄の仔マウスの子孫にさまざまな行動試験を実施したところ、目標指向行動と行動の柔軟性の点で、対照群より優れていた。また、それに伴って、ミネラルコルチコイド受容体遺伝子にエピジェネティックな変化が生じていることも判明した。この遺伝子は、ストレス応答に深く関与していることが既に明らかになっている。
Mansuyたちは、今回の研究で得られた知見が、臨床的うつ病などのストレス誘発性疾患を治療するための新しい方法につながることを期待している。ただし、こうした積極的な影響に寄与する機構の解明を進めるためには、さらに研究を進める必要がある。
doi:10.1038/ncomms6466
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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