【遺伝】アシュケナージ系ユダヤ人のルーツ
Nature Communications
2014年9月10日
現代のアシュケナージ系ユダヤ人集団については、最近のいくつかの遺伝学的研究によって、特徴が明らかにされているが、今週掲載される論文によれば、この集団の出現は、約600~800年前のことであり、ヨーロッパ系祖先集団と中東系祖先集団の融合の結果であった可能性が非常に高いとされる。
過去の研究で、アシュケナージ系ユダヤ人は、他のユダヤ人集団と現代の中東系、ヨーロッパ系の人々に近縁な遺伝的に独立した集団とされていた。独立した集団には、独特な遺伝的特徴が見られることが多く、アシュケナージ系ユダヤ人の独特な遺伝的特徴の1つは、パーキンソン病、乳がん、卵巣がんなどの遺伝性疾患の罹患率が高いことだ。
今回、Itsik Pe’erたちは、アシュケナージ系ユダヤ人の128件の完全ゲノムの高深度配列解読を行い、その結果を用いて、過去の研究によって報告されていた集団ボトルネック(集団内個体数の激減)があったことを確認し、それが25~32世代前だったことを明らかにした。
また、Pe’erたちは、現代のアシュケナージ系ユダヤ人が形成されたのが600~800年前(集団ボトルネックが起こった時期に近い)で、ヨーロッパ系祖先集団と中東系祖先集団の融合によるものだったことを示すモデルを作成した。また、ヨーロッパ系祖先集団が20400~22100年前(最終氷期極大期の頃)に中東系祖先集団から分岐した時に、創始者集団のボトルネックが起こったことも明らかになった。ヨーロッパ系祖先集団と中東系祖先集団のそれぞれの祖先も独自のボトルネックを起こしたことも判明し、それが「出アフリカ」事象に対応している可能性が非常に高いと考えられている。
今回の研究は、ヨーロッパ人と中東人の歴史に関する手掛かりをもたらしているだけでなく、アシュケナージ系ユダヤ人集団の基準ゲノムを明らかにしており、これまでより容易に有害な遺伝的変異を同定できるようになった。
doi:10.1038/ncomms5835
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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