Research Press Release

【動物学】クジラの紫外線対策

Scientific Reports

2013年8月30日

クジラが紫外線の悪影響を弱めるために用いる機構は種によって異なっていることを報告した論文が、今週掲載される。今後は、紫外線曝露がクジラに及ぼす長期的影響を調べるための研究が必要とされる。

紫外線を浴びたクジラが皮膚病変を発症することが、これまでの研究で明らかになっている。今回、Mark Birch-Machin、Karina Acevedo-Whitehouseたちの研究チームは、遺伝子レベルでの紫外線曝露の影響を調べ、クジラの損傷と回遊パターンが結びついていることを明らかにした。この研究では、シロナガスクジラ、ナガスクジラ、マッコウクジラの皮膚試料におけるミトコンドリアDNA(mtDNA)量がmtDNA損傷のマーカーとして用いられ、その測定が行われた。

その結果、メラニン量が多いことと微細な病変とmtDNA損傷が少ないことが相関する傾向が明らかになり、メラニンにクジラを太陽光から保護する働きのある可能性が示唆されている。また、シロナガスクジラが、紫外線に応じて皮膚の色素沈着を変化させる能力をもつことも判明した。このように紫外線に応じてメラニン量を変える(「日焼け」する)能力は、シロナガスクジラの回遊パターンと結びついている可能性がある。つまり、シロナガスクジラは、年1回、高緯度海域から低緯度海域へ回遊し、紫外線量の多い環境へ移動しているのだ。一方、ナガスクジラは、紫外線量の多い海域で永続的に生息しており、皮膚の色素沈着を変化させる能力が低いが、メラニン量の多い状態を常に維持している。ナガスクジラは、研究対象となったクジラの中で日焼けの発生が最も少ないことが記録されている。

いったん浮上すると海面付近で最長6時間滞在できるマッコウクジラは、紫外線曝露に対して別の応答の仕方をする。つまり、遺伝毒性ストレス経路を活性化させるのだ。マッコウクジラの場合には、この応答の一環として発現するタンパク質の1つであるHSP70の発現量が多いこととmtDNA損傷の量が少ないことが相関していることが明らかになり、このことは、この遺伝毒性ストレス経路に紫外線損傷を防御する作用のあることを示唆している。

doi:10.1038/srep02386

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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