Research Press Release
がんをたたく
Nature Chemical Biology
2013年7月29日
3通りの機序のうちのいずれかを利用してVCPという酵素を阻害する化合物ががん治療に新たなツールをもたらすという報告が、今週オンライン版に掲載される。
p97またはCdc48とも呼ばれるVCPはATPアーゼ(ATPの分解で生ずるエネルギーを利用してほかの化学反応を完成させる酵素)であり、タンパク質の統制的分解で役割を果たしている。VCPはがんとの関連付けも行われつつあり、その機能はがん細胞の状態の維持に必要とされている。そのため、VCPの機能を阻害すれば、正常なタンパク質分解が抑制されて有害な配列の蓄積を招き、がん細胞の死につながると考えられる。
Paola Magnaghiたちは、3通りの機序によってVCPを阻害する人工化合物群を発表している。そのうちの1群は、既知のVCP阻害剤と同様にATPと同一の部位に結合し、VCPに選択的なものではない。しかし、残りの2群は新しい方式で作用する。1群がATP部位内でVCPと共有結合を形成する一方、もう1群はATP部位から離れた予想外のアロステリック部位に結合し、触媒作用に必要な立体配座変化を妨げることによってVCPの機能を遮断すると考えられる。研究チームは、NMS-859およびNMS-873という化合物によって代表されるこの2群が複数のがん細胞株に細胞死を引き起こしたことを明らかにしている。
doi:10.1038/nchembio.1313
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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