【薬物送達】グレープフルーツを利用した組織特異的な薬物送達
Nature Communications
2013年5月22日
グレープフルーツに含まれる天然脂質によって作られたナノ粒子が、薬物送達担体として利用できることが明らかになり、この成果を報告する論文が、今週掲載される。この論文では、こうしたナノ粒子が、合成脂質で作られたナノ粒子より毒性が低いこと、そして、このナノ粒子を修飾することによって組織特異的な薬物送達ができるようになることが報告されている。
さまざまな治療薬の送達にナノテクノロジーを用いれば、薬物送達に伴う副作用を減らせる可能性があるが、合成材料から作られたナノ粒子では、不必要な副作用の起こることがある。今回、Huang-Ge Zhangたちは、グレープフルーツ由来の脂質を用いて大量のナノ粒子を作り出せることを明らかにした。このナノ粒子は、グレープフルーツ由来ナノベクター(GNV)と呼ばれる。そして、Zhangたちは、マウスモデルを使った実験で、抗がん薬などのさまざまな治療薬、DNA、それに、抗体などのタンパク質をGNVによって効率的に送達できることを実証した。また、Zhangたちは、GNVを修飾することで、特異的な細胞ターゲティングが可能になることも指摘している。GNVを用いて動物の治療を行った場合には、合成脂質のカプセルに入った薬剤による治療と比べて、副作用が起こりにくいという結果も得られた。Zhangたちは、食用のグレープフルーツ組織に由来するナノベクターは、使用材料に生分解性があるため、生体適合性が高い可能性があると考えている。
今回の研究では、グレープフルーツを利用したナノベクターによる薬物送達の可能性が明らかになったが、この方法でヒトの治療が成功するかどうかを判断するには、さらなる研究が必要とされる。
doi:10.1038/ncomms2886
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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