ゲノミクス:ラクダの生き残り術がゲノム塩基配列解読で明らかに
Nature Communications
2012年11月14日
野生のフタコブラクダと家畜化されたフタコブラクダのゲノム塩基配列の解読結果を報告する論文が、今週、Nature Communicationsに掲載される。ラクダは、食餌から高濃度の塩分を摂取しつつも、糖尿病や高血圧にならないが、今回明らかになったラクダのゲノムは、その理由を説明するうえで役立つ可能性がある。今回の研究成果は、極限環境でのラクダの生き残りを可能にする機構の研究にとっての情報源となる。
野生のフタコブラクダ(Camelus bactrianus ferus)は、旧世界ラクダの唯一の生き残りで、中国北西部とモンゴル南西部に生息している。紀元前3000年頃に生息していたことは動物考古学的記録から明らかになっているが、現在の生息数はわずか730~880で、絶滅寸前種と考えられている。今回、H Mengたちは、モンゴルに生息する8歳の雄の野生のフタコブラクダと6歳のアラシャンフタコブラクダのゲノムの塩基配列解読を行い、その進化と家畜化の歴史の解明を進めた。
その結果、ウシよりも進化速度が有意に速い2730個の遺伝子が同定され、それらが代謝に関連するシグナル伝達経路などの経路に位置することが明らかになった。Mengたちは、こうした経路の進化が特に速かったことが、ラクダの砂漠でのエネルギー貯蔵と生産を最適化するうえで役立った可能性があると考えている。また、今回の研究では、インスリンシグナル伝達経路の遺伝子の適応が見つかった。このことで、インスリン抵抗性が高く、血糖値の高いラクダが、糖尿病を起こさない理由を説明できるかもしれない。
doi:10.1038/ncomms2192
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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