【遺伝】仔アザラシが成体になるまで生きられるかどうかを決める遺伝子
Scientific Reports
2012年9月20日
ハイイロアザラシの仔の生存率に対する主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の影響を調べた研究の結果を報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。この研究では、成体になるまでに死んだハイイロアザラシの最大70%が、MHC遺伝子型を原因としている可能性が示され、特に仔の生存率と強く関連する1個のアレルが同定された。
今回、W Amosたちは、ハイイロアザラシ(Halichoerus grypus)の死亡率とMHC遺伝子型との関係を調べた。その結果、ハイイロアザラシの仔に見られるMHCアレルの数と生殖年齢まで生存する確率との間に強い相関のあることがわかった。つまり、4つのアレルがあれば、成体になるまで生存する確率がほぼ100%で、1つしかない場合には、その確率がかなり低かった。特に、アレル5は、ハイイロアザラシの仔が離乳までに死ぬかどうかを予測する有力な因子として関与していた。このように1つの免疫関連遺伝子を原因とする死亡の割合がこれほど高い事例は稀だとAmosたちは指摘する。
MHC遺伝子群は、脊椎動物の免疫系の重要な遺伝的要素であり、一部の種では、配偶者選択のための嗅覚的な手がかりを与える作用があると考えられている。今回の研究結果は、MHCの異なる雄を配偶者に選ぶことによってMHCのヘテロ接合性を高め、アレル5をもつ確率を高めることを通じて、仔が成体になるまで生存する確率を高めることが雌のハイイロアザラシにとって利益となりうる理由を示唆している。ただし、Amosたちは、今回の解析について、例えば、ハイイロアザラシ成体の年齢や季節の質が測定されていないため、暫定性がかなり高く、さらなる研究を行うことが、こうした過程の根底にある機構に関する手がかりを得るために役立つと指摘している。
doi:10.1038/srep00659
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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