非ふるえ熱産生源として重要な筋肉
Nature Medicine
2012年9月10日
筋肉は、低温に対する長期的適応にかかわる重要な器官であるとの報告が寄せられている。この知見によって、ヒトがエネルギーを使って体を温めるしくみの解明が進む可能性があり、肥満を対照にした研究など、他の研究にも役立つ可能性がある。
哺乳類は、低温に曝されると筋肉をふるわせて熱を産生するが、この応答は短期的適応である。長期的効果を得るためには、褐色脂肪組織(BAT)を利用して、ふるえを伴わない方式で熱を産生するらしい。
Muthu Periasamyたちは、筋肉も非ふるえ熱産生の起こる重要な部位の1つであることを明らかにし、このBAT中心説に疑問を呈した。筋肉のカルシウムポンプの負の調節因子であるサルコリピンが、細胞内カルシウム濃度が高いときにもカルシウムポンプと結合することに気付いたのである。この継続的調節がポンプの無駄な回転を引き起こし、ATPが使われて筋肉の非ふるえ型の熱生産につながる。サルコリピンをもたないマウスは、BATを外科的に除去すると、長く低温に曝されたときに中核体温を適切に維持できず、最終的には低体温症によって死んでしまう。これに対し、BATは除去したが正常レベルのサルコリピンをもつ野生型マウスでは中核体温は維持され、死ぬことはない。
この研究で使われたのはマウスだけであり、またBATの機能を遺伝的に阻害した訳ではないが、Periasamyたちは、今回の知見から非ふるえ熱生産では筋肉がBATと同じくらい重要なことがわかると考えている。最近BATが、全身のエネルギー消費を増加させて肥満を抑える方法につながると言われているが、今回の研究で、筋肉とサルコリピンも肥満の治療標的になる可能性が示唆される。
doi:10.1038/nm.2897
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