Research Press Release

健康:気候変動は抗菌薬耐性の世界的負担を増加させるかもしれない

Nature Medicine

2025年4月29日

現在の気候変動の進行と持続可能な開発戦略の未達成は、2050年までに薬剤耐性(AMR:antimicrobial resistance)の世界的負担を増加させるかもしないことを報告する論文が、Nature Medicine に掲載される。著者らは、2050年までに世界全体でAMRが最大2.4%増加する可能性があると予測し、世界的なAMRの負担を軽減するために、単に抗生物質の使用を減らすだけでなく、より広範な社会経済的・環境的要因への迅速な対策の必要性を訴えている。

2021年、細菌性AMRは世界で推定114万人の死亡の原因となり、低・中所得国で深刻な影響を与えた。この数は、2050年までに200万人近くまで増加すると予想されている。第79回国連総会参加した世界各国の首脳は、世界の細菌性AMRによる死亡者数495万人を2030年までに10%削減することを約束する宣言を発表した。しかし、AMRへの対応の多くは、過剰な抗生物質の使用に焦点が当てられており、気候変動や社会経済状況の背景にはあまり注意が払われてこなかった。

Lianping Yangらは、1999年から2022年の間に101ヵ国から得られた、抗菌薬に耐性を持つ6種類の主要細菌病原体の3,200万分離株を含む4,502件の記録を分析した。予測モデルを用いて、社会経済的・環境的要因や政策が世界のAMR傾向にどのような影響を与えるかを調査した。その結果、今世紀末までに世界の気温が4–5℃上昇するという最悪の気候変動適応シナリオ(SSP5-8.5;SSP = Shared Socio-Economic Pathway〔共通社会経済経路〕)の下では、低排出シナリオ(SSP1-2.6)と比較して、2050年までにAMRが2.4%増加する可能性があることが示唆された。この増加率は、地域別にみると、高所得国では0.9%、下位中所得国では4.1%、そして低所得国では3.3%とばらつきがある。

Yangらはまた、医療費の自己負担を減らし、予防接種率を拡大し、医療投資を増やし、水、衛生、および保健サービスへの普遍的アクセスを確保するといった持続可能な開発努力によって、AMRの将来の蔓延をベースラインより5.1%減少させることができることも明らかにした。これは、AMRの蔓延を2.1%低下させると予測される抗菌薬消費量の削減効果を上回る。

著者らは、生態学的モデリングアプローチのため因果関係を明確に示せない点、およびAMR監視データセットの品質の限界を認めている。さらに、主要モデルでは、教育、食品生産における抗菌薬使用、および畜産慣行など、AMRに寄与する特定の要因については、データが入手できなかったため考慮していない。

  • Article
  • Published: 28 April 2025

Li, W., Huang, T., Liu, C. et al. Changing climate and socioeconomic factors contribute to global antimicrobial resistance. Nat Med (2025). https://doi.org/10.1038/s41591-025-03629-3
 

doi:10.1038/s41591-025-03629-3

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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