神経科学:個別化された脳刺激はパーキンソン病の症状を軽減するかもしれない
Nature Medicine
2024年8月20日
個別化された神経信号を使用した深部脳刺激は、通常の装置を使用する場合と比べて、パーキンソン病(PD;Parkinson’s disease)患者の運動症状の持続時間を50%短縮させる可能性がある。この発見は、4人の患者を対象とした臨床試験のデータに基づいており、その結果を報告する論文が、Nature Medicineに掲載される。
深部脳刺激(DBS;Deep Brain Stimulation)は、パーキンソン病のような進行性の運動障害の治療として広く使用されている。従来の深部脳刺激は、患者の活動や症状に対応しない標準化されたアプローチで行われることが一般的である。そのため、患者の神経信号をリアルタイムで検知し、刺激を自動的に調整する適応型の深部脳刺激には大きな関心が寄せられている。
Carina Oehrnらの研究チームは、4人のパーキンソン病患者に脳センシングとフィードバック制御が可能な電極とニューロスティムレーター(神経刺激装置)を埋め込んだ。その後、クリニックや自宅で数日間にわたって患者の脳活動を記録し、同時に自己申告による運動日誌やスマートウォッチで患者の症状をモニタリングした。データ駆動型のアプローチにより、視床下核および運動皮質における脳活動シグナルを同定した。これらのシグナルは、薬物変動やパーキンソン病の運動症状に関連する信頼性の高いバイオマーカーである。Oehrnらは、これらの神経信号を使用して、患者の日常生活中に提供される深部脳刺激を個別化し、従来の深部脳刺激との結果を比較した。著者らの研究は、適応型深部脳刺激が従来の深部脳刺激と比較して運動症状の持続時間を50%短縮させることを示しており、ウェアラブルデバイス(着用型デバイス)によって得られた客観的な測定結果もこの減少を裏づけている。さらに、4人中3人の患者が生活の質の向上を報告した。
著者らは、今回のアプローチにより、進行期パーキンソン病の運動症状を軽減する一方で、患者は脳刺激と併せて適切な薬物療法も必要とされる可能性に言及している。Oehrnらは、今回の結果を確認するためには、より大規模なコホートを通じて、さらなる研究が必要であると結論づけている。
Oehrn, C.R., Cernera, S., Hammer, L.H. et al. Chronic adaptive deep brain stimulation versus conventional stimulation in Parkinson’s disease: a blinded randomized feasibility trial. Nat Med (2024).
doi:10.1038/s41591-024-03196-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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