健康:一部の人では、牛乳の摂取量の増加と2型糖尿病のリスク低下に関連が見られる
Nature Metabolism
2024年1月23日
ラクターゼ(乳糖分解酵素)を作らないラクターゼ活性非持続性の成人において、牛乳の摂取量の増加は2型糖尿病(T2D)のリスク低下に関連していることを示した論文が、Nature Metabolismに掲載される。ラクターゼが欠失している人に限られたことだが、牛乳の摂取量増加が腸内微生物相の特定の細菌のレベルと血中代謝産物のレベルを変化させ、これらがT2Dのリスク低下に結び付くことが分かった。
LCT(ラクターゼ)遺伝子の一塩基多型(SNP)のrs4988235という遺伝子型は、成人になってからもラクターゼ発現が持続するかどうかを決めている。ラクターゼ活性持続性(遺伝子型AA/AG)の人は、成人になってからも乳糖含有量の多い乳製品(牛乳など)を簡単に消化できるが、ラクターゼ活性非持続性(GG)の人は、ラクターゼが欠失し、多くの場合、乳糖不耐症となる。
今回、Qibin Qiらは、ヒスパニック系地域健康研究/ラテン系研究(HCHS/SOL)の参加者最大1万2653人について、宿主の遺伝子型、腸内微生物相、血中の代謝産物レベルを解析した(追跡期間の中央値は6年)。牛乳の摂取量は、2回の24時間思い出し法(参加者に過去24時間に飲食したもの全てを思い出してもらう方法)と、食事傾向アンケートによって評価した。牛乳摂取量が1杯(液量カップ1杯、約237ミリリットル)増えると、ラクターゼ活性非持続性の人に限り、T2Dの発症リスクがおよそ30%低下した。牛乳摂取量とLCT遺伝子型、T2Dリスクの関係は、英国バイオバンクの16万7172人の調査でも確かめられた。
ヒスパニック系とラテン系のコホートで見ると、ラクターゼ活性非持続性の人では、牛乳摂取量が腸内細菌種の存在量の明確な変化に関連することが分かった。観察されたビフィズス菌(Bifidobacterium)種の増加は、T2Dリスクの低下と相関していた。また、牛乳摂取量は、ラクターゼ活性非持続性の人の血中代謝物レベルの特異的変化にも関連していた。例えば、分枝鎖アミノ酸の変化やトリプトファン代謝物の変化などで、これらもT2Dリスクの低下に関連があった。一方、ラクターゼ活性持続性の参加者では、T2Dリスクとの関連は全く見られなかった。また、細菌種の存在量の変化と代謝産物レベルの変化は相関することが分かった。これらの知見は、牛乳摂取量が腸内微生物相の組成や血中代謝物のプロフィールに、宿主のLCT遺伝子型に依存した影響を及ぼす可能性があることを示しており、牛乳摂取がラクターゼの欠失した人のT2Dを防ぐのに役立つことを示唆している。
doi:10.1038/s42255-023-00961-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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