化学:マンガンを含む抗酸化物質の放射線抵抗性が初期地球での生命誕生を推進した可能性がある
Nature Communications
2023年12月6日
ガンマ線に耐性のあるマンガン系抗酸化物質を含む細胞様の構造が原始地球に存在し、これが生命の進化を可能にしたことを示すモデルについて記述した論文が、Nature Communicationsに掲載される。今回の知見は、進化の過程において初期の細胞が放射線損傷に対してどのように防御していたかを明らかにしている。
最初に地球上に出現した細胞は、プロトセル(原始細胞)と呼ばれる。原始細胞は、放射線量が現在よりはるかに高いことが知られている初期地球の過酷な条件下で存在した可能性があると考えられていた。放射線の照射は活性酸素種の産生を誘導し、活性酸素種は生体分子を損傷するが、原始細胞が放射線による破壊に対してどのように防御していたのかは分かっていない。これまでの研究から、高線量のガンマ線に抵抗性を持つDeinococcus radioduransという細菌は、無機ポリリン酸塩(多数のリン酸残基の鎖)とマンガンイオンによって酸化ストレスから守られていることが明らかになっていた。
今回、Bing Tianらは、ポリリン酸塩-マンガン系コアセルベートとポリリン酸塩-ペプチド系コアセルベートという2種類の主要なコアセルベート(原始細胞をモデル化した液滴)からなる放射線抵抗性を有する原始細胞モデルについて報告している。Tianらは、原始地球に存在したと考えられる高線量のガンマ線をこの2種のコアセルベートに照射し、ポリリン酸塩-マンガン系コアセルベートは無傷のままで、この液滴内のタンパク質は保護されたのに対し、ポリリン酸塩-ペプチド系コアセルベートは破壊されたことを示した。Tianらは、マンガン系抗酸化物質に活性酸素種を除去する能力があるために、放射線抵抗性がもたらされたという考えを示している。次に、Tianらは、ポリリン酸塩-ペプチド液滴とDNAを結合したコアセルベートをポリリン酸塩-マンガン系コアセルベートに封入して、細胞様の構造を組み立てた。そして、細胞質様のポリリン酸塩-マンガン液滴(細胞モデルの内部を満たす液体)が、ペプチドとDNAを含む核を放射線損傷から保護できることを明らかにした。
Tianらは、以上の知見は、初期細胞とその内部の生体分子を放射線から保護する機構を示していると考えられ、原始細胞が現在の細胞に進化する過程がこの機構によって支援された可能性があると述べている。
doi:10.1038/s41467-023-43272-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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