遺伝学:キツネはサハラ砂漠での生活にどう適応したか
Nature Ecology & Evolution
2023年6月13日
アフリカ北部のキツネがサハラ砂漠での生活に適応するに当たっては、近縁種のDNAがゲノムに持ち込まれたこと(遺伝子移入として知られる過程)が寄与したと明らかになった。このことを報告する論文が、Nature Ecology & Evolutionに掲載される。今回の知見は、こうした高温乾燥環境での生活を可能にした遺伝的・生理的機構を明らかにしている。
キツネ属(Vulpes)のキツネの中には、世界最大の高温砂漠であるサハラ砂漠に生息するオジロスナギツネ(Vulpes rueppellii)やフェネック(Vulpes zerda)のように、砂漠に適応した種が存在する。水に不自由しない地域に生息する種とは異なり、オジロスナギツネやフェネックは皮膚や呼気から水分をほとんど失わず、フェネックは腎臓に水を保持することができる。オジロスナギツネと極めて近縁のアカギツネ(Vulpes vulpes)は北半球のさまざまな場所に生息し、生態は異なるものの、サハラ砂漠の北端では両種が共存している。
Joana Rochaらは、ゲノミクスと生理学の手法を組み合わせ、極端に高温のサハラ砂漠への適応機構を調べた。Rochaらは、サハラ砂漠に定着した時期の異なる4種のキツネ(オジロスナギツネ、アカギツネ、フェネック、オグロスナギツネ〔Vulpes pallida〕)を含む82個体の全ゲノム塩基配列を解読した。その結果、オジロスナギツネとフェネック近縁種の間で共有されるゲノム領域が見いだされ、そこには砂漠環境で選択された、水分欠乏下での尿濃縮に関連する遺伝子が含まれていた。また、後からアフリカ北部へ広がったアカギツネのゲノムには、オジロスナギツネ由来の移入領域が発見された。さらに、砂漠のみに生息する種(オジロスナギツネとフェネック)とアフリカ北部やユーラシアに生息するアカギツネで血液や尿の生理学的指標を比較すると、前者は脱水下で水分を保持する能力が高いことが明らかになった。このことは、腎外性水分喪失や熱産生に関与する遺伝子の選択を示すシグネチャーと一致する。
Rochaらは、砂漠に生息するキツネ種の間で共有される遺伝的多様性は、砂漠辺縁部のように変化する環境への適応に寄与していると示唆している。
doi:10.1038/s41559-023-02094-w
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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