Research Press Release

保全:海面水位の上昇によってウミガメの集団繁殖地が失われるかもしれない

Scientific Reports

2023年4月21日

海面水位の上昇により、オーストラリア、ドミニカ共和国、コスタリカ、米国に存在するウミガメの繁殖地が浸水するかもしれないことが明らかになったと報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。今回の知見は、浸水がウミガメの集団繁殖地の減少の一因となるかもしれないこと、そして、オサガメの巣が特に脆弱である可能性を示唆している。

今回、Marga Rivasたちは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の代表的濃度経路(RCP)4.5(中排出シナリオ)と8.5(高排出シナリオ)という温室効果ガスの排出シナリオの下で、2010年から2100年までの間にウミガメの集団繁殖地(7カ所)に存在する巣(2,835カ所)が浸水する確率を算出した。繁殖地の所在地は、モンドンギロ海岸(コスタリカ)、グアナアカビベス半島(キューバ)、サオナ島(ドミニカ共和国)、エクアドル沿岸、レイン島(オーストラリア)、セントジョージ島(米国フロリダ州)とシント・ユースタティウス島(オランダ領カリブ)であった。そして、5種のウミガメ(オサガメ、アカウミガメ、タイマイ、ヒメウミガメ、アオウミガメ)が、この繁殖地を利用していた。

中排出シナリオ(RCP 4.5)の下では、平坦な海岸にある繁殖地が浸水に対して最も脆弱で、レイン島とサオナ島の標高の低い平坦な海岸の繁殖地にある巣の100%が2050年には浸水すると予測されることが明らかになった。また、このシナリオの下では、セントジョージ島とモンドンギロ海岸の巣の100%も2050年には浸水に対する脆弱性が高くなっていると予測された。そして、複数種のカメが利用する繁殖地内では、種によって好みの営巣地が異なるため、特にオサガメの巣が、浸水に対して脆弱である可能性があると評価された。オサガメは、満潮線付近の開けた場所に巣を作る傾向があり、タイマイやアオウミガメは、それよりも標高が高く、砂丘や切り立った崖に近い場所に巣を作る傾向があるからだ。そのため、シント・ユースタティウス島では、中排出シナリオの下で、2050年には、平均でオサガメの巣の50%、タイマイの巣の18%、アオウミガメの巣の13%が浸水に対して脆弱な状態になる可能性があるという推定結果が示された。

メスのウミガメは、自分が孵化した海岸に戻って巣を作るため、海面水位の上昇によって浸水した海岸で多くのウミガメが巣作りをして、これがウミガメの孵化数に悪影響を及ぼすかもしれないとRivasたちは推測している。また、Rivasたちは、ウミガメが営巣地の氾濫にどれだけ早く適応するかを調査するためにさらなる研究が必要であるため、海面水位の上昇による浸水がウミガメの個体数に及ぼす長期的な影響は今のところ分からないと述べたうえで、海面水位の上昇の影響を緩和するための戦略とウミガメの回復力を高める戦略(例えば、ウミガメが営巣する砂浜への砂の補充、巣の移動、ウミガメの孵化場の利用など)の必要性が今回の研究結果によって浮き彫りになったとしている。

doi:10.1038/s41598-023-31467-1

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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