生物学:低温にさらされた線虫の寿命が延びる仕組みに関する新知見
Nature Aging
2023年4月4日
線虫(Caenorhabditis elegans)が低温条件下に置かれると、寿命が延び、加齢関連タンパク質の機能不全が低減する仕組みについて、1つの仮説を示した論文が、Nature Agingに掲載される。
線虫、ショウジョウバエ、マウスなどの動物の体温を適度に下げると寿命が延びることが、これまでの研究で明らかになっている。適度に低い体温と長い平均寿命が相関していることは、ヒトについても実証されている。しかし、体温が少し低下することの寿命延長効果に関係する機構は、十分に解明されていない。
今回、David Vilchezたちは、低温がプロテアソーム(タンパク質複合体の一種)の活性に影響するかどうかを調べた。プロテアソームは、タンパク質を分解する機能を有し、一部の疾患に関連する細胞タンパク質(損傷した細胞タンパク質や誤って折り畳まれた細胞タンパク質)の蓄積をなくすことができる。Vilchezたちは、線虫において、低温(15℃)がPSME-3(活性化因子の一種)によって仲介されるプロテアソーム活性を促進し、PSME-3の発現が寿命を延ばすことを明らかにした。PSME-3が存在しない場合には、低温がタンパク質分解に及ぼす有益な影響は抑制されるため、加齢関連疾患(ハンチントン病と筋萎縮性側索硬化症)の線虫モデルにおいて、疾患関連タンパク質(損傷したタンパク質や誤って折り畳まれたタンパク質)の蓄積が増えた。また、Vilchezたちは、培養したヒト細胞を適度に低い体温(36℃)にさらすと、PSME-3のヒト相同分子が活性化され、疾患関連タンパク質の変化が減る可能性のあることを実証した。
なお、Vilchezたちは、さらなる研究を行って、PSME-3の役割と治療効果可能性を調べる必要があると結論付けている。
doi:10.1038/s43587-023-00383-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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