生物工学:タンパク質を標的細胞に送達するデバイス
Nature
2023年3月30日
細菌を「注射器」として利用し、タンパク質をヒトの細胞に注入するように設計されたタンパク質送達システムについて報告する論文が、Natureに掲載される。この手法は、ヒトの遺伝子治療やがん治療など、将来の生物医学的療法に有用な応用が期待される。
一定の種類のタンパク質を特定の細胞種に送達するという手法は、疾患の治療法となる可能性を秘めている。一部の細菌を利用することで、宿主細胞と連動するための送達システムが進化している。その一例が、先の鋭くとがった部分を細胞膜に打ち込むことによってタンパク質を細胞に注入する小型注射器のような機構だ。しかし、こうした送達システムに関しては、ヒト細胞内で機能するのかどうか、標的細胞を認識するために用いられる機構は何なのかといった点が、ほとんど解明されていない。
今回、Feng Zhangたちは、通常は昆虫の細胞を標的とする細菌タンパク質を基にして、AlphaFoldを使って上述の送達システムに適したタンパク質の構造を予測した上で、この細菌タンパク質を改変して、培養ヒト細胞を標的とするタンパク質にした。そして、この送達システムを使って、さまざまな種類のタンパク質を高い効率でヒト細胞に送り込めるかもしれないことが明らかになった。また、Zhangたちは、このシステムを生きたマウスの細胞を標的とするように改良し、このシステムを生きた生物の体内にタンパク質を導入する目的で利用できることも実証した。
このシステムについて、Zhangたちは、将来的にヒトの治療法に用いる送達ツールとして利用される可能性があるという見解を示している。
doi:10.1038/s41586-023-05870-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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