Research Press Release

医学研究:原因不明の小児肝炎とアデノ随伴ウイルス2型(AAV2)

Nature

2023年3月31日

2022年以降、原因不明の小児肝炎の症例数が増えているが、この現象を小児期のありふれたウイルスであるアデノ随伴ウイルス2(AAV2)と関連付けた3編の論文が、今週、Natureに掲載される。ただし、AAV2が、この肝炎の原因なのか、別のウイルスによる感染症の指標に過ぎないのかは明らかになっていない。

2022年以降、英国や米国など35カ国で原因不明の小児肝炎(肝臓の炎症)が1000例以上報告されている。その中には、肝移植を必要とする重症の肝炎もあり、少数ながら死亡例もあった。これまでの解析では、ヒトアデノウイルス(呼吸器感染症や胃腸炎などの疾患を引き起こす一般的な病原体)との関連性が見つかっているが、この原因不明の小児肝炎とヒトアデノウイルスとの間に因果関係があるかどうかは不明だ。

これら3編の独立した研究論文は、AAV2感染が原因不明の小児肝炎の増加と関連していることを示す証拠をもたらしている。AAV2は、肝臓内で複製することが知られているが、肝炎の原因かどうかは分かっておらず、「ヘルパー」ウイルスなしでは複製できない。

今回、Charles Chiuたちは、米国の原因不明の急性重症肝炎の患児(16人)から採取された検体を分析し、対照群(113人)の検体と比較した。患児の血液検体(14件)では、93%(13件)でAAV2が検出されたのに対し、対照群では3.5%(4件)だった。これらの患児14人全員は、ヒトアデノウイルス検査で陽性だった。また、AAV2に感染していた患児(13人)については、AAV2の複製を促進する可能性のあるヘルパーウイルス(エプスタイン・バー(EB)ウイルスやHHV-6グループのヒトヘルペスウイルスの1つなど)の同時感染が検出された。Chiuたちは、この原因不明の小児肝炎の重症度がAAV2とヘルパーウイルスの同時感染に関連しているかもしれないという考えを示している。

これとは独立した2つの英国の研究(Emma Thomsonたちの研究とJudith Breuerたちの研究)でも同様の結果が得られたことが報告されている。Thomsonたちのチームは、肝炎症例32例中26例(81%)でAAV2を検出したのに対し、対照群では74例中5例(7%)だった。Breuerたちのチームは、肝炎症例28例中27例(96.4%)でAAV2を検出し、対照群での検出率は低かった。Thomsonたちは、患児の遺伝的特性と肝炎症例が関連していることを見出した。ヒト白血球抗原(免疫系が感染細胞を認識することを助ける分子)の遺伝子を保有していた者の割合は、対照群で約16%であったのに対し、患児では約93%だったのだ。この知見は、一部の小児が遺伝的に特定の種類の肝炎にかかりやすいという可能性を示唆している。また、Breuerたちは、低い量のヒトアデノウイルスとヒトベータヘルペスウイルス6B(HHV-6B)を検出しており、これらのウイルスがAAV2の複製を可能にし、免疫介在性の肝障害を誘発したかもしれないという考えを示している。

以上3編の論文は、最近になって原因不明の小児肝炎の症例数が増加したことをAAV2感染と関連付けているが、AAV2が肝疾患の発症にどのような役割を果たしているかは不明のままだ。原因不明の肝炎の症例数が増加したことの背後にある要因については、数々の疑問が残っている。同時掲載のFrank TackeによるNews & Viewsでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるロックダウンが果たした役割についての考察が示されている。「2022年春の肝炎の波は、世界中でCOVID-19対策が緩和された時期と重なっており、症例数は、急速に減少した」とTackeは述べ、「そのため、小児がロックダウン後に大量のウイルスに突然さらされたことや小児の免疫系が十分に訓練されていなかったことのために、本来は無害なウイルスに感染しやすくなったという事実によって、肝炎が大発生した時期を説明できるかもしれない」と付言している。

doi:10.1038/s41586-023-05949-1

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