材料:卵黄タンパク質はオールド・マスターズの油絵具の優れた添加物質だった
Nature Communications
2023年3月29日
サンドロ・ボッティチェリ、レオナルド・ダ・ヴィンチやその他のイタリアのルネサンス期の巨匠を始めとする「オールド・マスターズ」(ルネサンス期から18世紀までのヨーロッパ美術の巨匠)と呼ばれる芸術家が油絵具にタンパク質を加えていたのは、湿気、表面のしわ、黄変などの問題を克服するためだったという可能性を示唆した論文が、Nature Communicationsに掲載される。この知見は、これらの芸術家たちが油絵に卵黄などのタンパク質を加えた理由に関する理解を深め、オールド・マスターズの芸術作品の保全や保存に役立つ可能性がある。
伝統的な芸術家であるオールド・マスターズの多くは、絵画を制作する際に油を展色剤として使用していたことが知られていることに加えて、これまでに多くのオールド・マスターズの絵画からタンパク質が検出されている。しかし、タンパク質を添加していた理由と絵画の制作工程でタンパク質を添加した場合の効果は明らかになっていない。
今回、Ophélie Ranquetたちは、油絵具に卵黄タンパク質を添加した場合の効果を調べた。その結果、卵黄タンパク質が顔料粒子の周りに薄い層を形成することで、湿度の高い環境での水分の吸収を抑制できることが分かった。また、卵黄を加えることで、力強い厚塗り(インパスト)のできる練りの硬い絵具を調製したり、絵具が乾燥する際に表面のしわを防いだりすることも明らかになった。また、卵黄に含まれる抗酸化物質は、酸素と油成分の反応速度を低下させて、固体塗膜の形成を抑えることで、絵具が乾く過程で起こる黄変を防ぐために役立っていた。
doi:10.1038/s41467-023-36859-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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