物理学:ヨコバイが尿の液滴を発射する機構はエネルギーを節約するためだった
Nature Communications
2023年3月1日
ヨコバイは、1日に自分の体重の最大300倍に相当する大量の老廃物を排出するために、液滴のスーパープロパルション(superpropulsion)を利用していることを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。ヨコバイは、この機構を使って液滴を発射して「ヨコバイの雨」を降らせるのだが、これがエネルギーを節約する戦略であることが、今回の研究で得られた知見から示唆されている。
ミリメートルスケールの昆虫であるヨコバイの食餌である植物の樹液は、95%が水分で、栄養成分が少ない。ヨコバイは、この食餌で生き残るために、大きな筋肉と効率的な消化器系を使って樹液を大量に抽出し、ろ過している。そして、1日に体重の最大300倍に相当する老廃物を排出している。これに対して、ヒトが1日に排出する老廃物は、体重の約2.5%に過ぎない。
今回、Saad Bhamlaたちは、ヨコバイがスーパープロパルションによって尿の液滴を生成することについて、他の老廃物排出機構(例えば、セミ科昆虫の液滴噴流の生成)よりもエネルギー節約型の戦略になっていることを明らかにした。スーパープロパルションとは、振動している表面に付着した液滴が、その振動面よりも速い速度で上方に推進される現象のことをいう。Bhamlaたちは、ヨコバイが肛門の針状器官と尿の液滴の時間調整をして、両者の振動周波数が同調したところで1滴の尿を発射するという機構になっていることを一連の実験によって実証した。
今回の研究で得られた知見は、昆虫から着想を得た工学的設計によるエネルギー効率の高い自己洗浄構造やソフトロボットの原動機に有益な情報となる可能性があるとBhamlaたちは考えている。
doi:10.1038/s41467-023-36376-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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