感染症:オルガノイドを使った研究がCOVID-19からの防御手法の開発に道を開いた
Nature
2022年12月6日
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の細胞内への侵入を促進する受容体であるACE2を下方制御する経路が同定されたことを報告する論文が、Natureに掲載される。この経路を標的とする臨床承認薬が、さまざまなモデル(オルガノイドとそれに対応する動物とヒトの組織を含む)におけるSARS-CoV-2感染を減少させることが明らかになったのだ。SARS-CoV-2の宿主受容体を調節することによって感染を予防するという方法は、ワクチン接種を補完できるかもしれないし、SARS-CoV-2に感染しやすい特定の集団に有用となる可能性がある。
免疫不全患者など一部の高リスク者は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンに対して適切な応答を示さない可能性がある。SARS-CoV-2の宿主受容体は、このウイルスの感染に必須の存在であり、この受容体を標的にすることは、ワクチンに代わる方法として注目を集める可能性がある。ACE2は、SARS-CoV-2の主要な受容体であるが、この受容体の発現を制御する機構は十分に解明されていないため、ACE2の発現を修飾して感染を予防する薬を見つけることが困難になっている。
今回、Fotios Sampaziotisたちは、SARS-CoV-2に感染した組織(肺や消化管を含む)におけるACE2の発現を直接修飾するファルネソイドX受容体(FXR)を特定した。次にSampaziotisたちは、FXRを阻害できる薬剤の試験を行って、ウルソデオキシコール酸(UDCA;一部の肝疾患の治療に用いられる)が、ヒト肺オルガノイド、ヒト胆管オルガノイドとヒト腸オルガノイドだけでなく、それに対応するマウスとハムスターの組織におけるACE2の発現を低下させることを明らかにした。また、UDCAは、健康な被験者の鼻細胞のACE2を減少させ、実験室で維持されているヒトの肺と肝臓の感染を予防することが明らかになった。さらに、Sampaziotisたちは、後ろ向き臨床データを用いて、UDCAを用いる治療がSARS-CoV-2感染後の転帰改善と相関していることを明らかにした上で、独立した肝移植レシピエントの集団を対象として、この知見の妥当性を確認した。
以上の知見は、FXRがCOVID-19治療における新しい治療標的であることを示しており、COVID-19患者のUDCA治療と良好な臨床転帰が相関している可能性を示唆している。
doi:10.1038/s41586-022-05594-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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