神経科学:麻痺発症後の歩行回復をもたらすニューロンの特定
Nature
2022年11月10日
慢性脊髄損傷患者(9人)が電気刺激を受けた後に歩行能力を回復した研究で、麻痺からの回復を促進するニューロンが特定された。この知見は、麻痺後に運動性が回復する過程についての理解を深めるものであり、この研究に関する論文が、今週、Natureに掲載される。
脊髄の電気刺激は、麻痺患者の歩行回復を改善するうえで有効なことが分かっているが、この治療の基盤となっている機構については明らかになっていない。
今回、Grégoire Courtineたちは、電気刺激を実施した場合に、麻痺発症後の患者の歩行に必要となる脊髄の特定のニューロン群が動員されるのかどうかを調べた。今回の研究では、脊髄損傷を原因とする重度の麻痺患者と完全麻痺患者(合計9人)が臨床試験に登録して、硬膜外電気刺激(EES)治療を受けた。この治療においては、これらの患者全員に歩行能力の回復または改善が直ちに見られ、5カ月間のEES治療とリハビリテーションの後に運動性の改善が明らかになった。Courtineたちは、この改善の基礎となる機構を探究するため、ヒトにおけるEES神経リハビリテーションの重要な特徴を再現するマウスモデルを作出し、さらには、マウスの脊髄のさまざまなニューロンにおける遺伝子発現の単一細胞マップを構築した。そして、Courtineたちは、このマウスモデルと分子マップを統合して、脊髄損傷後の歩行回復に重要な役割を果たすが、脊髄損傷のない人の歩行には必要のない特定の種類の興奮性ニューロンを特定した。
今回の知見により、EESリハビリテーションの機構の解明が一歩近づいた。しかし、Courtineたちは、脳と脊髄の他のニューロンは歩行回復に寄与するため、さらなる研究が必要だと指摘している。
doi:10.1038/s41586-022-05385-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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