Research Press Release

保全:オーストラリアの大規模な河川ダムがカモノハシの長期的な生存を脅かしている

Communications Biology

2022年11月4日

大規模な河川ダム(高さ10メートル以上の人造ダム)がカモノハシの集団を分断、隔離して、カモノハシの長期的な生存を脅かしている可能性があることを明らかにした論文が、今週、Communications Biologyに掲載される。

カモノハシは、現在、国際自然保護連合の絶滅危惧種レッドリストで準絶滅危惧種に分類されている。カモノハシは、ほとんどの時間を水中や水辺で過ごし、陸上を移動する際にはキツネ、ネコやイヌの脅威にさらされている。以前に小さなダムの周囲を登っているカモノハシが報告されているが、大きなダムがカモノハシの個体や集団の動きに与える影響を調べる研究は行われていなかった。

今回、Luis Mijangosたちは、オーストラリアのニューサウスウェールズ州とビクトリア州の9つの河川の周辺に生息する274匹のカモノハシから採集したDNAを比較することで、大規模ダムがカモノハシの集団に及ぼす影響を研究した。そのうち、5つの河川(ミッタ・ミッタ川、スノーウィー川、ユーカンビーン川、ネピアン川、セヴァーン川)には高さ85メートルから180メートルの大規模ダムが建設されており、4つの河川(オーブンズ川、スレッドボ川、ウィンゲカリビー川、テンターフィールド川)にはダムがない。

今回の研究で、河川ダムによって分離されたカモノハシ集団の集団内遺伝的差異が、隣接するダムのない河川の近くに生息する集団の4~20倍に達していることが明らかになった。また、ダムのあるミッタ・ミッタ川、ネピアン川、セヴァーン川の近くに生息する集団においては、ネピアン川のダムによって分離されたカモノハシ集団の集団内遺伝的差異が最大だった。さらに、大規模ダムによって分離された一部の集団の集団内遺伝的差異は、異なる河川の周辺に生息する集団間の遺伝的差異に近かった。ネピアン川のダムによって分離された集団の集団内遺伝的差異は、ダムのあるセヴァーン川の周辺に生息する集団と、セヴァーン川とつながっておらず、ダムもないテンターフィールド川の周辺に生息する集団との間の遺伝的差異よりも高かった。そして、Mijangosたちは、(カモノハシ1世代の年数が平均7.9年であることを前提として)それぞれの大規模ダムの完成後に誕生したカモノハシの世代数を推定し、大規模ダムによって分離された集団の集団内遺伝的差異が1世代ごとに高くなったことを明らかにした。

今回の知見をまとめると、大規模河川ダムが、それぞれの水系内におけるカモノハシの移動や集団の混合を妨げる障壁として作用して、カモノハシの野生集団の分断につながっている可能性のあることが明らかになった。Mijangosたちは、カモノハシ集団の遺伝的隔離が続けば、近親交配のリスクが増大し、病気のアクトブレイク(集団発生)などの脅威に対する脆弱性が増して、カモノハシの長期的な生存が脅かされるかもしれないという考えを示し、カモノハシ集団の混合を促進する戦略(例えば、カモノハシがダムをよじ登れるような補助構造)や個体が集団間を移動することを促進する戦略を検討すべきだと付言している。

doi:10.1038/s42003-022-04038-9

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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