環境:植林が地球全体の気候パターンに及ぼす影響を評価する
Nature Communications
2022年10月5日
大規模な植林プロジェクトは地球のエネルギー収支を変化させ、地球全体の大気循環パターンと海洋循環パターンの両方に影響を与える可能性のあることがモデリング研究によって示唆された。この知見は、気候変動の影響の緩和に役立てるための大規模な植林プログラムが、地球全体の気候に思いがけない影響を及ぼす可能性があることを示している。今回の研究について報告する論文が、Nature Communications に掲載される。
これまでに数々の大規模な植林(新規植林と再植林)プロジェクトが提案され、炭素貯蔵によって気候変動とそれに関連する影響を緩和することを目的としていた。この考えに対しては、国民の支持がある。植林と森林減少は、いずれも炭素循環に影響し、それによってCO2濃度に影響して、地球全体の気候と各地域の気候に影響を及ぼすことが知られている。森林への炭素貯蔵の可能性と再植林の熱力学的影響(局地的・全球的)については議論がなされてきた。しかし、天候パターンと気候パターンに及ぼす影響については、複雑な問題であるために解明されておらず、植林の計画や植林政策において考慮されていない。
今回、Raphael Portmanたちの研究チームは、産業革命前の植被を完全に森林に転換するシナリオと完全に草地に転換するシナリオで、大気中のCO2濃度を産業革命前のレベルに維持して、数世紀にわたる結合気候モデルによるシミュレーションを行った。Portmanたちが作成したモデルは、地球規模の植林と森林減少が地球のエネルギー収支に影響し、それぞれ正反対の影響を及ぼして、大気循環パターン、海流と熱帯収束帯を強めたり、弱めたり、変化させたりすることを示した。このように、植林と森林減少のいずれもが、全世界で、降水量、気温、雲量や地上風の地域的パターンの変化を引き起こす可能性がある。
植林は、とりわけ大気の質、生物多様性、栄養などの面で有益なため、今回の研究で得られた知見を植林に反対する一般的な主張に利用すべきではない点に注意を要することをPortmanたちは指摘している。また、Portmanたちは、大規模植林プロジェクトの設計において、植林地域から遠く離れた地域の気候に予想外の影響が及ぶ可能性を考慮に入れる必要があるとも述べている。
doi:10.1038/s41467-022-33279-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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