Research Press Release

環境:極端な洪水と干ばつがリスク管理を難しくしている

Nature

2022年8月4日

洪水や干ばつに対するリスク管理戦略では、前例のない大規模な洪水や干ばつの影響を低減できないと考えられることを示唆した論文が、Nature に掲載される。極端な洪水や干ばつは、気候変動の結果として増加する可能性が高いが、今回の知見は、このような極端な事象を管理することの難しさを浮き彫りにしている。

リスク管理戦略の実施により、洪水や干ばつに対する世界的な脆弱性が低下したが、洪水や干ばつの影響は、依然として深刻であり、世界の多くの地域で増大する傾向にある。地球温暖化によって気温が産業革命以前と比べて2℃上昇するという予測からは、洪水が世界経済に及ぼす影響が2倍になり、干ばつがヨーロッパの経済に及ぼす影響が3倍になることが示唆されている。このように影響が大きくなる原因を理解することは重要だが、実証データの不足によって妨げられている。

今回、Heidi Kreibichたちは、リスク管理戦略の効果を評価するために、同じ地域で異なる時点に発生した2つの洪水事象または干ばつ事象(発生間隔が平均16年)を1組にしたデータセット(45組)を解析した。一般的にリスク管理によって洪水や干ばつの影響が低減したが、過去に経験したことのない規模の洪水事象または干ばつ事象があった場合には、リスク管理の方法にかかわらず、その影響が低減しない可能性があることが明らかになった。この結果は、ハザードを管理するために設計されたインフラ(堤防や貯水池など)の閾値を超える洪水や干ばつが起こったことに起因している可能性があるという見解をKreibichたちは示している。また、特にめったに起こらない極端な洪水や干ばつに関しては、人間のリスク認識の問題点が、洪水や干ばつの予測とその影響を低減する取り組みに悪影響を及ぼしているかもしれないとKreibichたちは考えている。

なお、データセットに含まれていた2組の事象(1995年と2018年のバルセロナの洪水と2002年と2013年のオーストリアとドイツのドナウ川流域の洪水)では、2度目の事象の方がハザードの程度が高かったにもかかわらず、影響が小さかった。その原因について、Kreibichたちは、リスク管理が向上し、統合管理法に対する投資がなされていたために、早期警報と緊急対応が改善され、堤防などの構造的変化による補完もあったことを挙げている。Kreibichたちは、こうした対応の成功例を利用することで、気候変動のために増える可能性のある空前の洪水や干ばつの影響を低減するためのリスク管理戦略のあり方を明らかにできるかもしれないと結論付けている。

doi:10.1038/s41586-022-04917-5

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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