Research Press Release

健康技術:スマホを利用した費用対効果の高い中耳機能検査法の開発

Communications Medicine

2022年6月17日

新たに開発されたスマートフォン用アタッチメントを使って中耳の機能を検査できることを報告する論文が、Communications Medicine に掲載される。中耳は、我々が聞いている音が脳に伝わる過程で重要な役割を果たしている。このスマートフォンを利用したデバイスは、材料費(スマホ本体の価格を除く)が28ドル(約3600円)で、従来の検査デバイスが最大5000ドル(約65万円)であるため、資源に限りのある低所得国や農村地域で有用なデバイスとなる可能性がある。

ティンパノメトリーは、聴覚クリニックで使用される多くの検査の1つで、空気圧の変化に対する鼓膜の動きを測定することによって中耳の機能を検査する。ティンパノメトリーやその他のツールを用いて中耳の疾患を正確にスクリーニングできれば、専門医への紹介を適切に行えるようになり、耳の疾患を治療せずに放置した場合に起こりうる重篤な合併症の可能性を減らすことができる。既存のティンパノメトリー機器(ティンパノメーター)の購入には2000~5000米ドル(約26万~65万円)かかるため、世界の一部地域ではティンパノメトリーや高品質の聴覚補助装置の利用が制限されている。

今回、Justin Chanたちの研究チームは、スマートフォン用アタッチメントとして使用できるポータブルで軽量かつ低コストのティンパノメトリー機器を開発した。この機器は、外耳道を密閉して、中耳内の空気圧を変化させて、鼓膜の可動性の測定値(ティンパノグラム)を生成する。このアタッチメントの材料費は28ドルだった。

Chanたちは、シアトル小児病院(米国シアトル)の聴覚クリニックに通院する1〜20歳までの小児患者(合計28人)のうち50例の耳を対象として、このデバイスを検証し、5人の聴覚専門医が評価を行った。その結果、スマホを利用する検査装置の計測値のうちの86%が市販のティンパノメーターの計測値と一致した。今回開発されたツールのハードウエアとソフトウエアの設計は公開されており、誰でもデバイスを再現できるようになっている。

Chanたちは、この新しいデバイスが、特にスマートフォンの利用者が増加している低中所得国において、ティンパノメトリーを利用しやすくできる可能性があると結論付けている。このデバイスをもっと大きな集団(成人や年少乳児を含む)で評価するには、さらなる研究が必要となる。

doi:10.1038/s43856-022-00120-9

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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