微生物学:ファージ療法が汎薬剤耐性細菌感染症の治療に役立つ
Nature Communications
2022年1月19日
ファージ療法と抗生物質の投与を併用することで、汎薬剤耐性の肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)による骨折関連感染症の患者(30歳女性)の状態が著しく改善したことを報告する論文が、Nature Communications に掲載される。今回の症例研究は、薬剤耐性細菌感染症に対するファージ療法の有望性を実証している。
汎薬剤耐性細菌(別名「スーパー耐性菌」)は、市販されている全ての抗菌薬に対して耐性を示し、この細菌による感染症は、治療選択肢が限定されるため、公衆衛生上の脅威が増している。代替的治療法としては、ウイルスの一種で、細菌に感染して死滅させるバクテリオファージを用いる方法がある。
今回、Anaïs Eskenaziたちは、自爆テロの被害者で、汎薬剤耐性肺炎桿菌による骨折関連感染症を起こし、ほぼ2年間の抗生物質療法が奏功しなかった30歳女性の症例において、6日間のファージ療法を実施した結果を報告している。Eskenaziたちは、患者から採集した肺炎桿菌株に特異的なバクテリオファージを選定し、肺炎桿菌を最も適切に死滅させるように適応させた。そして、この前適応したバクテリオファージ(創傷部位への局所的塗布)と抗生物質を併用して治療が行われた。3か月後、患者の全身状態は改善し、創傷部位は治癒過程にあり、細菌感染の証拠は得られなくなった。そして、ファージ-抗生物質併用療法から3年後、患者は運動能力を回復し、スポーツ行事に参加できるようになった。
Eskenaziたちは、今回の症例研究は、ファージ療法の可能性を実証しているが、治療の複雑な個別化が必要となる可能性が高く、より大きな患者群への適用には困難が伴うと結論付けている。
doi:10.1038/s41467-021-27656-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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