遺伝学:青銅器時代のグレートブリテン島への大量移住の第3波
Nature
2021年12月23日
中・後期青銅器時代にヨーロッパ大陸からグレートブリテン島に古代人が大量移住していたことが初めて明らかになり、これが、初期ケルト語の普及を促進したと考えられることを報告する論文が、Nature に掲載される。この知見は、現在の英国民の遺伝的構成を説明する上で役立つ。また、今回の研究は、乳糖耐性に関連する対立遺伝子の頻度の違いを明確に示しており、青銅器時代のグレートブリテン島と中央ヨーロッパの住民では、乳製品の使用に違いがあった可能性を示唆している。
英国では、過去1万年間に少なくとも2回の集団の入れ替わりが起きていたことが、これまでの古代DNAの研究によって明らかになっている。紀元前3950~2450年ごろにグレートブリテン島に居住していた最初の新石器時代の農民の祖先は、約80%が初期のヨーロッパの農民で、約20%が初期のヨーロッパの狩猟採集民だと考えられている。2度目の移住は、紀元前2450年ごろに起こり、ポントス・カスピ海ステップ(黒海とカスピ海に挟まれたヨーロッパとアジアにまたがる地域)に住む牧畜民の血を引くステップ集団を祖先とするヨーロッパ大陸民の到来と関連していた。この移住の第2波によって英国民の祖先の約90%が入れ替わり、その後は、イングランドとスコットランドにおいてステップ集団を祖先とする人々の割合に差がなくなった。しかし、現在のイングランドでは、ステップ集団を祖先とする人々の割合は著しく小さくなった。この変化の原因となった事象が、上記の2回の移住の後に起こったことは間違いないが、それが何だったのかは今まで謎のままだった。
今回、David Reichたちは、この時代の古代人793人のゲノム規模のデータを生成して、これまでに報告された中で最大規模の古代DNA研究を行った。そして、Reichたちは、これまで知られていなかったグレートブリテン島への移住の第3波があり、この移住が、紀元前1000~875年にピークに達したことを明らかにした。この時の移住者は、フランスから到来したと考えられており、この移住者を祖先とする人々が、鉄器時代のイングランドとウェールズの集団でほぼ半数を占めた。言語は、一般に人の移動を通じて普及するため、この結果は、ケルト語が後期青銅器時代にフランスから英国に入ってきたという学説を裏付けている。また、この大規模なゲノムデータのプールは、成人の乳糖耐性に関連する対立遺伝子の頻度に違いがあることを明確に示した。この対立遺伝子の研究から、グレートブリテン島の人々が牛乳を消化する能力が高まった時期が、中央ヨーロッパよりも約1000年早かったことが示された。この知見は、この時期の英国で、乳製品が中央ヨーロッパと異なる文化的役割を果たしていた可能性を示している。
doi:10.1038/s41586-021-04287-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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