神経科学:炭疽毒素がマウスの痛みを和らげる
Nature Neuroscience
2021年12月21日
致死性の炭疽菌(Bacillus anthracis)から放出される炭疽毒素が、マウスの痛みを緩和することを明らかにした論文が、Nature Neuroscience に掲載される。今回の知見は、炭疽毒素が疼痛治療の新たな選択肢になる可能性を示唆するが、その正確な作用機序と他の生物における有用性を判断するには、さらなる研究が必要だ。
侵害受容器は、特殊化した感覚ニューロンで、我々が有害な環境変化や刺激(例えば、極端な気温や気圧)に遭遇したときに警告シグナルを発する。このシグナルは、脳内で痛覚として翻訳される。侵害受容器は、特定のタイプの病原性細菌を、直接あるいは細菌が産生する毒素を介して感知する。しかし、一部の細菌は、疼痛シグナルを遮断する物質を放出して、感知を免れようとする。
今回、Isaac Chiuたちは、マウスとヒトの両方で、炭疽毒素に結合する受容体が後根神経節ニューロン(脊髄に隣接する特殊化した感覚ニューロン)に発現していることを明らかにした。さらに、炭疽毒素の一種である浮腫毒素をマウスに投与したところ、痛み刺激(例えば、熱さや針で刺す刺激)に対する感受性が低下した。この効果は、炭疽受容体を発現している感覚ニューロンに依存していた。浮腫毒素が疼痛シグナル伝達を低下させる正確な機構は解明されていないが、マウスとヒトの幹細胞モデルの両方で浮腫毒素が感覚ニューロン間のシグナル伝達を遮断することが明らかになった。
Chiuたちは、このような炭疽毒素の誘導体と疼痛受容体との相互作用に関する知見が、疼痛治療のための新しい研究ツールと、既存薬より優れた治療薬の開発を促す可能性があると結論付けている。
doi:10.1038/s41593-021-00973-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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