惑星科学:アポロ17号が集めた月の試料の再分析がもたらす月の進化の手掛かり
Nature Communications
2021年12月15日
アポロ17号のミッションにおいて月で採取された岩石試料の分析が新たに行われ、その結果を報告する論文が、Nature Communications に掲載される。今回の知見は、月の複雑な冷却と進化の歴史に関する新たな情報となった。
1972年にアポロ17号の宇宙飛行士が、月の表面から岩石試料(トロクトライト76535)を採取した。トロクトライト76535は、その原始的な性質のために、科学的に最も価値のある月の試料の1つであり続けている。
今回、William Nelsonたちは、最新の高分解能分析技術を用いてトロクトライト76535を調べた。岩石中のリン濃度が測定されて、鉱物粒子中に保存された拡散パターンが、高温下で約2000万年間に急速に冷却したという歴史と一致することが判明した。この知見は、冷却期間を1億年としたこれまでの推定に疑問を投げ掛けるもので、月の地殻内のマグマが初期段階で急速に冷却したとする学説を裏付けている。Nelsonたちは、月の初期進化と冷却の歴史がこれまで考えられていたよりも複雑であることが、今回の知見によって示唆されたと述べている。今回の研究は、過去に採取された月の試料を再検討することの価値と、惑星の進化についての我々の理解が新たに得られたデータによっていかに早く変わってしまうかを明示している。
同時掲載のCommentでは、Tabb PrisselとKelsey Prisselが、過去に採取された月の試料を新しい分析技術を使って再検討することの重要性をさらに強調している。彼らはまた、月の歴史をさらに解明するための、現在実施されている、または近い将来に予定されている試料採取ミッションについての見通しも示している。
doi:10.1038/s41467-021-26841-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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