ヒトの進化:アフリカからの人類の移動には気候上の制約があった
Nature Communications
2021年8月25日
ホモ・サピエンスがアフリカから移動する際に利用できた時期と経路は、気候の影響を受けていたことを示唆する論文が、Nature Communications に掲載される。今回の研究は、現生人類の分散における古気候の変動性の役割を強調しており、ホモ・サピエンスの進化史を理解する上で役立つ可能性がある。
初期人類がアフリカから他の地域に移動したと一般的に考えられているが、これに関連する化石や古代のDNAが稀少であるため、ユーラシアへの移動の時期や経路については論争がある。
今回、Robert Beyer、Andrea Manicaたちは、古気候の再構築結果と狩猟採集民が生存するために最低限必要な降雨量の推定値を用いて、アフリカからユーラシアへの移動を容易にする良好な気象条件と十分な降雨量が得られる時期と経路を評価した。著者たちのシミュレーションによって示唆された推定時期と推定経路は、考古学的証拠と遺伝学的証拠との整合性が認められ、このため過去30万年間にアフリカからの移動が複数回起こった可能性が示唆された。ホモ・サピエンスは、初期のいくつかの移動の波では、ユーラシアに永住できず、その後の約6万5000年前に、より大きな規模の移動の波が起こって移住に成功した。著者たちは、その理由として、南西アジアの厳しい環境条件、アフリカからの移住者の到着が断続的だったことと、他のヒト族との競争の可能性を挙げている。
著者たちは、今回の研究で、ホモ・サピエンスがアフリカから移動することが気候的に可能だった時期が実証されたと結論付けている。ただし、そうした時期に実際に移動があったかどうかを調べるためには、さらなる研究が必要とされる。
doi:10.1038/s41467-021-24779-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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