進化:同性間の性行動が進化の過程で保たれてきたことに関する洞察
Nature Human Behaviour
2021年8月24日
米国と英国の集団を対象とした研究から、同性間の性行動に関連する遺伝効果は、異性間の性行動のみを行う人々の交配上の優位性にも関連していることが明らかとなった。このことを報告する論文が、Nature Human Behaviour に掲載される。一方で、著者たちは、今回調べた遺伝子の違いは小さく、ヒトDNA塩基配列の全体に見られるもので、同性間性行動の遺伝率のごく一部しか捉えていないと注意を促している。これらの知見がより広いヒト集団に当てはまるかを確かめるためには、さらに研究を進展させる必要がある。
今回、Brendan Zietschたちは、英国と米国の47万7522人を対象としたゲノムワイド関連解析(GWAS)において、同性間性行動に関する遺伝効果を、過去に同性との性行為の経験のない場合と比較して解析した。またZietschたちは、これら2つの国の35万8426人を対象としたGWASでは、過去に異性の性的パートナーしか持たず、生涯におけるパートナー数を明らかにした人の、異性間性行動に対する遺伝効果を推定した。その結果、同性間の性行動に関連する遺伝効果は、過去に異性の性的パートナーしか持たなかった集団では、より多くの異性の性的パートナーがいることとも関連することが判明した。Zietschたちは、異性の性的パートナーの数は交配成功の指標の1つであり、進化の過程において、子を多くもうけることにつながった可能性があるのではないかと述べている。今回明らかとなった遺伝効果は、同性間の性行動が、種としてのヒトの進化の過程で続いてきた理由を説明する手掛かりとなるかもしれない。つまりそうした遺伝効果が、もうける子の多さと関連することから、進化の過程で有利に作用してきた可能性がある。
Zietschたちは、今回の研究にはいくつかの限界があり、得られた知見は慎重に解釈されるべきであると述べている。第1に、今回用いられたデータは、英国と米国のヨーロッパ系の個人のみに由来するものであり、そのためヒトの遺伝的多様性や行動的多様性の一部を捉えたものにすぎない。同性間の性行動と異性の性的パートナーの数が、いずれも社会的に強く規制される行動であることを考えれば、この点は結果に影響を及ぼす可能性がある。第2に、今日のヒト集団において報告された異性の性的パートナーの数は、過去のヒト進化の過程においては生殖上の優位性と関連していない可能性がある。
doi:10.1038/s41562-021-01168-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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