気候変動:1851~2019年の大西洋における重大ハリケーンの変化傾向を評価する
Nature Communications
2021年7月14日
最強クラスの大西洋ハリケーン(重大ハリケーン)が最近増えているのは、100年規模の変動の一環ではなく、1960~1980年代のハリケーン活動の極小期からの回復を反映している可能性があるという見解を示した論文が、Nature Communications に掲載される。ただし、この知見は、気候変動が必ずしも熱帯低気圧の頻度や強度に影響を及ぼしていないという意味ではない。著書たちは、気候変動性とエーロゾルによるハリケーンの減少が、北大西洋の重大ハリケーンの頻度に対する温室効果ガスによる100年規模の温暖化の寄与を覆い隠しているかもしれないという考えを示している。
海面水温が上昇すると、熱帯低気圧は強力になると想定されている。大西洋の重大ハリケーンは、1980年以降、発生頻度が上昇してきたが、この最近の傾向が人為起源の温室効果ガス排出の結果なのか、それとも大西洋のハリケーン活動の変動性を反映しているのかは、明らかになっていない。この点を評価する際の重大な課題の1つは、衛星データを利用できるようになった1972年より前の観測記録が不完全であることで、そのために1972年以前のハリケーン活動が過小評価されている可能性がある。
今回、Gabriel Vecchiたちの研究チームは、1851~2019年の大西洋における重大ハリケーンの活動記録を分析し、人工衛星による1972~2019年のハリケーンの進路と特徴の記録を用いて、1851~1971年の船舶記録に残っていない可能性のある暴風雨の数を推定した。Vecchiたちは、こうした推定に基づいて、重大ハリケーンの活動がここ数十年間で増大したが、最近の重大ハリケーンの頻度は20世紀の記録上異常なものではなく、1960~1980年代の活動の極小期からの回復を反映したものであることを見いだした。Vecchiたちは、このハリケーン活動の低下は、人為起源のエーロゾル排出によるハリケーン活動の抑制に自然の変動性が加わった結果だとする考えを示している。今回の最新の推定においても、1年単位から10年単位の時間規模での変動が示されており、気候変動性が大西洋の重大ハリケーンの活動に強い影響を与えていることを示している。
doi:10.1038/s41467-021-24268-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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