古生物学:遠い昔の昆虫の翅が解き明かす昆虫のコミュニケーションの起源
Communications Biology
2021年7月9日
このほど発見された昆虫の翅の化石で観察された複数の特徴が、翅を用いたコミュニケーションを示す最古の証拠になったことを報告する論文が、Communications Biology に掲載される。この知見は、昆虫が翅を使って情報を発信することが石炭紀後期(約3億1000万年前)から始まっていた可能性を示唆している。
多くの昆虫は、翅の形や色に加えて、翅が発する音を使って、交尾相手を引き寄せたり、捕食者から逃れたりしている。こうした行動が、いつ、どのようにして進化したのかは分かっていない。コミュニケーションに使われている構造と他の目的に使われている構造を、翅化石において区別するのが難しいからだ。
今回、André Nelたちの研究チームは、フランスのリエヴァンで昆虫の翅の化石を発見し、ティタノプテラ目の新種の翅であることを明らかにした。ティタノプテラ目は、キリギリスに似た巨大な捕食性昆虫で、翅の長さは最長のもので33センチメートルを超えていた。Nelたちは、この新種をTheiatitan azariと命名した。テイアー(Theia)は、ギリシャ神話に登場する光の女神だ。この翅は、これまで最古とされていたティタノプテラ目種の化石や翅を使って音を出していたと考えられているPermostridulus brongniartiの化石よりも約5000万年古い。Nelたちは、一部のティタノプテラ目種(T. azariを含む)の前翅の中に、さまざまな角度や形状の複数のパネルが存在していることを見いだした。これらのパネルは、コミュニケーションのために翅を使って光を反射させたり、音を発したりする化石昆虫や現生昆虫の持つパネルに似ている。T. azariは、翅を使って光を反射させたり、パチパチという音を発生させたりすることでコミュニケーションを行っており、この翅の形状と構造から、それが可能だったのは、こうしたパネルのためであると示唆された。
以上の知見は、昆虫の進化史を通じて、翅が昆虫のコミュニケーションにとって重要だったことを明確に示しており、T. azariがコミュニケーションのために翅を使用していた最古の昆虫種であることを示している。
doi:10.1038/s42003-021-02281-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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