動物学:マッコウクジラの出産を「深掘り」する
Scientific Reports
2026年3月27日
2023年7月にドミニカ沖で観察された野生のマッコウクジラ(sperm whale;Physeter macrocephalus)の出産に関する詳細な観察結果を報告する論文が、オープンアクセスジャーナルScientific Reports に掲載される。著者らによると、この発見は、クジラ、イルカ、およびネズミイルカ(porpoises)を含む鯨類の野生個体の出産に関する、これまで公表された中で最も詳細な観察記録である。
鯨類における野生個体の出産の観察は稀であり、記録されているのは鯨類の10%未満に過ぎない。
Shane Gero、David Gruberら(Project CETI(Cetacean Translation Initiative)〔米国〕)は、以前に研究対象となっていた11頭のマッコウクジラの群れの中で、ドローン、水中音響、および船上からの写真撮影を用いて出産を観察した。報告によると、出産の分娩段階は33分間続き、出産から1分以内にマッコウクジラの群れのメンバーが新生児を水から引き上げ、成体のメスの頭や背中に乗せた。出産から約2時間後、マッコウクジラの群れは解散し始め、新生児は母親(Rounderとして知られる)、異母姉妹(Accra)、および叔母(Aurora)とともに残った。著者らは、その子クジラが1年後にAccraとAuroraとともに観察されたことを指摘し、生後1年を生き延びたことから、成体まで生き延びる可能性が高いと示唆している。
出産中、著者らは「コーダ(codas)」と呼ばれる発声を記録した。コーダは、これまでの研究により、これらのマッコウクジラが属するより広範な文化集団の社会的アイデンティティーに関連していると提唱されている。これらの発声は、出産時の社会的絆の形成を支えている可能性がある。著者らは、また、出産中の重要な局面において発声の変化を観察した。これには、より遅く長いコーダに加え、人間の母音「a」や「i」に似た新たな音(コーダ母音として知られる)が含まれていた。この発声は、数百メートル先まで検知可能であったため、研究者らは、マッコウクジラの群れに近接して観察され、相互作用していたコビレゴンドウ(short-finned pilot whales;Globicephala macrorhynchus)やサラワクイルカ(Fraser’s dolphins;Lagenodelphis hosei)の群れにも聞こえていたのではないかと推測している。
公開された9種の鯨類における野生での出産記録をレビューした結果、著者らが観察した協調的な持ち上げ行動は、ほかの3種のハクジラ類(toothed whale species)、すなわち、オキゴンドウ(false killer whales;Pseudorca crassidens)、シャチ(orcas;Orcinus orca)、およびシロイルカ(beluga whales;Delphinapterus leucas)、においてのみ記録されている。著者らは、この行動が3400万年以上前、これらの種の最後の共通祖先にまでさかのぼる可能性があると提唱している。また、著者らは、初期の鯨類がより深い水域で出産するようになった際、新生児が溺れるリスクを減らすためにこの行動が進化したのではないかと示唆している。
- Article
- Open access
- Published: 26 March 2026
Aluma, Y., Baron, Z., Barrett, R. et al. Description of a collaborative sperm whale birth and shifts in coda vocal styles during key events. Sci Rep 16, 9206 (2026). https://doi.org/10.1038/s41598-025-27438-3
doi:10.1038/s41598-025-27438-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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