Research Press Release

天文学:ゴッホの『星月夜』、7月の夜空に着想か

Scientific Reports

2026年10月23日

フィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh)の絵画『星月夜(The Starry Night)』に描かれた夜空は、1889年7月22日の夜明け前に見られた天体の配置から着想を得た可能性があることを報告する論文が、オープンアクセスジャーナルScientific Reports に掲載される。この研究結果は、同作品が新月前の細い月、金星、そしてヒアデス星団(Hyades star cluster)を芸術的に捉えたものであることを示唆している。著者らは、従来6月とされてきたこの作品の制作時期について、見直しが必要ではないかと論じている。

ゴッホの『星月夜』(1889年)は、世界で最も有名な絵画の一つであり、フランス・サン=レミ=ド=プロヴァンス(Saint-Rémy-de-Provence)にあるゴッホの部屋の窓からの景色を様式化して描いたものと広く考えられている。しかし、描かれた夜空が画家の空想によるものか、象徴的な表現か、実際の天体観測にもとづくものかについては、議論されてきた。また、正確な制作時期も定かではない。1889年6月中旬を想定したこれまでの天文学的解釈では、相反する結論が得られているためである。たとえば、これまでの分析では、従来の制作時期とされる6月中旬には、月は絵画に描かれたものよりもはるかに満ちた形に見えていたはずだとされている。

この疑問を検討するため、Elijah Jeong-hyun Kim(SLLAB, INC.、慶熙大学校〔韓国〕)、Ho Jin(慶熙大学校〔韓国〕)らは、天文学的シミュレーションと星の位置測定、歴史的な気象記録、そしてゴッホの手紙を組み合わせた分析の枠組みを構築した。著者らは、それ以前に描かれた風景のスケッチをもとに、『星月夜』に描かれた狭い視野の範囲を再構成した。その結果、1889年7月22日の夜明け前には、細い月、金星、おうし座のヒアデス星団が、絵画とおおむね一致する配置で見えていたと考えられることがわかった。当時の気象記録からは、この日の前後には、こうした天体の配置を観察できるほど夜空が晴れていたことが示唆される。また、ゴッホの手紙にはセミへの言及が多く、暑い時期であったことがうかがえる。このことは、1889年7月の気温記録とよりよく整合する。

これらの証拠を総合すると、『星月夜』に描かれた夜空は、6月ではなく7月の観測から着想を得た可能性がある。ただし、著者らは、これらの証拠から完成日を特定することはできず、複数の夜の観測が作品に組み合わされているとも考えられると注意を促している。

Kim, E.Jh., Kang, S., Song, J. et al. The actual sky of Van Gogh’s Starry Night: a multidisciplinary reconstruction. Sci Rep 16, 31109 (2026). https://doi.org/10.1038/s41598-026-73025-5

 

doi:10.1038/s41598-026-73025-5

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