環境科学:氷河期の北極海が淡水化していた時期
Nature
2021年2月4日
北極海とそれに隣接するノルディック海は、最近の二度の氷河期において、海水がなくなり、ほぼ淡水化していた時期が間欠的に存在し、厚い棚氷で覆われていたことを示唆する論文が、今週、Nature に掲載される。この知見は、これまでの淡水レベルの推定値に基づいた古代の海水準の再構築を修正する必要があると考えられることを示している。
過去の北極域の気候や環境がどのようなものであったかを理解することは、将来どのように変化するのかを予測する上で役立つ。これまでの研究では、過去に北極海のかなりの部分が棚氷で覆われていた可能性のあることが示唆されている。しかし、北極海の海洋堆積物コアからの試料を解釈するのは困難なため、そのような棚氷の証拠は得られていない。
今回、Walter Geibertたちは、同位体トリウム230の分析を用いて北極海の過去の状態を再構築できることを明らかにした。トリウム230は、塩水中でウランが崩壊すると生成され、海洋堆積物中に捕捉されて、海洋堆積物コアの深度に対応する時点での塩分レベルを示す。Geibertたちは、北極海とノルディック海の堆積物コアの複数の層にトリウム230が存在していないことを報告している。これは、これらの時点ではトリウム230が生成されていなかったこと、従って塩水が存在しなかったことを示している。Geibertたちは、この地域は7万~6万2000年前と約15万~13万1000年前に淡水化しており、こうした変化は比較的短い期間に起こっていたとする仮説を提示している。
Geibertたちは、淡水化していた時期に、棚氷がノルディック海まで広がっており、ノルディック海を塞いで大西洋からの塩水の流入を防いでいた可能性があるという見解を示している。また、Geibertたちは、この過程が淡水を急速に海洋に放出する手段だった可能性があり、海水準の再構築ではこの点を考慮する必要があると付け加えている。同時掲載のNews & ViewsではSharon Hoffmanが、今回の結果が今後、北極域がどれほど劇的に変化するのかについての再評価を促進する可能性があると指摘している。
doi:10.1038/s41586-021-03186-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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