微生物学:新生児に抗生物質を使用すると男児のみ発育が遅れる
Nature Communications
2021年1月27日
生後数週間以内に抗生物質への曝露があると、男児では6歳までの体重と身長の発育が抑制されるが、女児ではそうならないことを明らかにした論文が、Nature Communications に掲載される。今回の研究は、男児のみに見られるこのような影響が、腸内マイクロバイオームの発達に生じた変化に起因している可能性を示唆している。
生後数週間の新生児に抗生物質を使用すると、腸内マイクロバイオームの組成が変わるという報告があるが、このような抗生物質への曝露の長期的影響は解明されていない。
今回、Omry Korenたちは、フィンランドのトゥルクで2008~2010年に生まれた乳幼児1万2422人のコホートを対象として、新生児期(生後14日以内)の抗生物質への曝露と6歳までの発育との関連を調べた。乳幼児身体発育曲線に基づく統計的スコアを用いたところ、新生児期に抗生物質への曝露があったサンプルの男児では、曝露のなかったサンプルの男児に比べて6歳までの体重と身長の伸びが小さかったが、女児ではこのような影響は見られなかったことが分かった。これに対して、新生児期を過ぎてから6歳までの間に抗生物質が使用された乳幼児は、男女共にボディーマス指数(BMI)が高かった。
これとは別に、Korenたちは、抗生物質への曝露があった乳幼児と曝露がなかった乳幼児の糞便微生物相を無菌マウスに移植する実験を行った。その結果、抗生物質を投与されてから1か月後と24か月後の乳幼児の糞便微生物相を移植された雄マウスでは発育障害が認められたが、雌マウスでは変化は見られなかった。
Korenたちは、生後初期における抗生物質への曝露が腸内マイクロバイオームの長期的変化と関連しており、その結果として6歳までの男児の発育が遅れる可能性があるという考えを示している。ただし、Korenたちは、今回の研究には限界があり、例えば、抗生物質の使用に至った根本的な原因(生後初期の身長や体重の増加に影響を及ぼす可能性がある)の影響についての解明が不十分なため、今回の結果の解釈は注意深く行うべきだと指摘している。
doi:10.1038/s41467-020-20495-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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