遺伝学:アルコール摂取と疾患の遺伝的関連の分析に生じる偏りを補正する
Nature Communications
2021年1月13日
アルコール摂取量などの自己申告に基づいた形質に関する遺伝学的研究は、不正確な申告や行動の変化によって偏りが生じている可能性のあることを報告する論文が、今週、Nature Communications に掲載される。この知見は、アルコール摂取と特定の疾患の相関に関する研究報告の矛盾を説明する上で役立つ可能性がある。
アルコール摂取量の増加は、さまざまな病気のリスクを高めると長い間考えられてきた。しかし、最近の研究で、アルコール摂取の遺伝的基盤は、特定の疾患と負の相関があることが明らかになり、疾患に対するアルコールの防御作用の可能性が示唆された。この結果に対して考えられる説明の1つは、ある種の疾患の患者は、診断後にアルコール摂取量を変えたり、調査においてアルコール摂取量を不正確に申告したりする可能性がある、ということである。
今回、Jian Yangたちは、英国バイオバンクの45万5607人のデータを用いて、不正確な自己申告や行動の変化がアルコール摂取に関する遺伝研究の結果に偏りを生じさせるかどうかを調べた。その結果、不正確な自己申告や行動の変化を補正しなかった場合、アルコール摂取と2型糖尿病、高血圧症、鉄欠乏性貧血との間に負の遺伝的相関が見いだされた。しかし不正確な自己報告や行動の変化を補正すると、負の相関は認められなくなり、心血管疾患など8種類の疾患や総疾患数との正の相関が認められるようになった。
今回の研究結果は、行動形質の遺伝学的研究における潜在的な偏りについて研究者たちに注意を促すものであるとともに、それを補正する方法を示している。ただしYangたちは、この偏りが必ずしも全ての集団や行動形質に当てはまるわけではないと指摘している。
doi:10.1038/s41467-020-20237-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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