疫学:下水の一次処理汚泥でSARS-CoV-2を追跡
Nature Biotechnology
2020年9月18日
排水の分析を行えば、検査で陽性が見つかる前に、地域社会でのSARS-CoV-2感染の状況を前もって知ることができるかもしれないという報告がNature Biotechnology に掲載される。この知見は、米国の都市圏の1つ、コネチカット州ニューヘイブンで10週間にわたって下水の一次処理汚泥を分析して得られたもので、検査体制が不十分な地域や報告の遅れのある地域で、感染の最新情報を得るのに役立つかもしれない。
COVID-19の広がりは、主として診断検査の結果や病院のデータから追跡される。しかしCOVID-19では、感染から最大2週間も症状が現れない可能性があり、検査体制が逼迫していると陽性結果の集計に遅れが出る可能性もある。これまでにも、病気のエピデミックの際に下水の監視という対策は行われたことがあり、また排水中のSARS-CoV-2 RNA量の増加がCOVID-19の症例数の増加と関連することも知られている。
Jordan Pecciaたちは、ニューヘイブンの下水処理場の一次処理汚泥を10週間解析した。3月19日から6月1日にかけて毎日の汚泥を採取し、汚泥中のSARS-CoV-2のRNA濃度と公表されている感染データとを比較した。検査サンプル採取の日付でみたSARS-CoV-2検査陽性の数や割合、検査陽性の公表日でみた検査陽性数、COVID-19による入院数とを解析したところ、下水汚泥中のウイルスRNA濃度の方が、検査サンプル採取日でみた検査陽性の数や割合よりも0~2日早く動くことが分かった。また汚泥データの方が、病院への入院数より1~4日、検査陽性の公表よりは6~8日も早いことも分かった。この6~8日という期間は、主として検査結果の報告・集計の遅れで説明できる。
汚泥データ、疫学データ共にばらつきが大きいため、著者たちは汚泥中のSARS-CoV-2 RNA量とCOVID-19の症例数の関連を明確に示していないが、検査やその集計が遅れている地域では、汚泥データの増減傾向の分析が、感染動向を前もって知るのに役立つ可能性があるとしている。
doi:10.1038/s41587-020-0684-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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