ウイルス学:コウモリのウイルスからSARS-CoV-2が分岐した時期
Nature Microbiology
2020年7月28日
SARS-CoV-2は、最も近縁のコウモリウイルスからおよそ40~70年前に分岐した可能性が高いという報告が、Nature Microbiology に掲載される。この発見は、SARS-CoV-2の発生につながったウイルス系統が、何十年間もコウモリの間で広まっていた可能性があることを示している。
SARS-CoV-2の進化歴の解明はこれまで難しかったが、それは、コロナウイルスが組換え(異なったウイルス間での遺伝物質の交換)を起こしやすいとされ、ウイルスゲノムの小さな領域ごとに祖先が異なる可能性があるためである。コウモリウイルスRaTG13はSARS-CoV-2に最も近縁のウイルスであることが判明しており、COVID-19の流行はコウモリ起源である可能性が高い。しかし、センザンコウでも同様なコロナウイルスが見つかっており(特に、2019年に広東省で採取されたセンザンコウウイルス1種;センザンコウ-2019)、これが中間宿主である可能性が指摘されている。
Maciej Boniたちは、サルベコウイルス(SARS-CoV-2が属する亜属)のゲノムデータを使って、SARS-CoV-2の進化歴を解析した。彼らは3つの方法を使って、組換えを起こしたことがなくて、ウイルスの進化の再現に使用できる領域を突き止めた。その結果、3つの方法全てでRaTG13とSARS-CoV-2が単一の祖先系統を共有していることが示唆され、SARS-CoV-2が関連するコウモリサルベコウイルスから遺伝的に分岐したのは、それぞれ1948年、1969年、1982年と推定された。彼らはまた、ウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)を調べた。ウイルスは、このドメインのおかげで、ヒトACE2受容体を使って細胞内に侵入することができる。このドメインは、RaTG13よりもセンザンコウのウイルスに遺伝的によく似ていることが明らかになっているが、著者たちによれば、スパイクタンパク質には、SARS-CoV-2につながる系列と他の既知のサルベコウイルスとの間に組換えが起こったという証拠は見られないという。この知見に基づき、著者たちは、このタンパク質とそのRBDが、SARS-CoV-2、RaTG13、センザンコウ-2019につながる系列の祖先形質であると考えている。そして、SARS-CoV-2とセンザンコウウイルスとは共通の祖先を持ち、センザンコウがヒトへの伝達に何らかの役割を果たしている可能性はあるものの、センザンコウがウイルスの中間宿主である可能性は低いと結論付けている。
著者たちは、SARS-CoV-2の分岐期間が長いことは、コウモリにはサンプル採取されていないウイルス系列が存在する可能性があることを示していると主張している。また著者たちは、この系列が、ヒトに適応した接触残基がSARS-CoV-2のRBD上の原型的な位置にあるために人畜共通感染能を持つ可能性があるが、これを評価するにはより良いサンプリングが必要であると述べている。著者たちは結論として、コウモリ保有宿主中の系列に見られる多様性と活発な組換え過程を見ると、ヒトでの重大な流行を引き起こす可能性のあるウイルスを出現前に見つけることがいかに難しいかがよく分かると述べ、病原体を迅速に特定、分類できるヒト疾患のリアルタイム監視システムの必要性を強調している。
doi:10.1038/s41564-020-0771-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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