医学研究:移植に適した肝臓の数を増やすためのアプローチ
Nature Communications
2020年6月17日
ドナーから提供された肝臓の機能を評価することで、移植に適しているのに現在の臨床診療では廃棄されている肝臓を特定できる可能性があることを報告する論文が、Nature Communications に掲載される。この新知見によって、移植に利用可能なドナー肝のプールをもっと大きくできるかもしれない。
移植に適したドナー肝が不足しているため、肝移植のできる患者の数が抑えられている。一方で、一部のドナー肝は、主観的な臨床評価に基づいて移植に適さないと判定され、廃棄されている。廃棄される臓器のプールから安全に移植できるドナー肝を特定することは、臨床上の大きな課題になっている。
今回、Hynek Mergental、Darius Mirza、Simon Affordたちの研究チームは、臓器保存法である常温機械灌流を行っている肝臓について、肝機能のマーカーとして代謝物である乳酸のクリアランスを測定することが、廃棄される臓器のプールから移植に適したドナー肝を特定する上で役立つかを評価した。その結果、この方法を用いて評価された31個の肝臓のうち22個が移植に適したものと確認され、臨床試験で46~65歳の患者への移植が成功した。臨床試験に参加した患者の中で、移植90日後までに早期移植片機能不全を起こした患者はいなかったが、その後7人の患者が早期移植片機能障害を発症した。さらに、その後の経過観察中に、4人の患者が非吻合部胆管狭窄と呼ばれる重篤な合併症を発症し、新たな肝移植が必要となった。この臨床試験には無作為化対照群が設定されなかったが、現行の臨床ガイドラインを満たしていてこの臨床試験のいくつかの側面に適合した肝臓の移植を受けた比較群では、早期移植片機能障害と非吻合部胆管狭窄の症例は少なかった。
著者たちは、保存中の肝臓の機能を評価することで、現在は廃棄されている臓器のプールから移植に適したドナー肝を特定できると考えられると結論付けている。ただし、移植片の長期生存を示す高感度なバイオマーカーを特定するための研究を行う必要がある。
doi:10.1038/s41467-020-16251-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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